臨床検査の種類、前回の続き
前回は検査結果の数値の話でしたので、今回はその続きです。検査結果の数値が徐々に上がる場合や徐々に下がる場合は注意しましょうといった話でした。診察をする医師も気が付くでしょうから、そのコメントや注意事項を守っていれば、大きな問題は起きないだろうといったことを書いて終わりましたが、今回は、なぜ異常値が出るのかといった話を中心にしたいと思います。
前回も少し触れましたが、基準値とか基準範囲とか言ったものがあるのはご存じですよね。健常人の多くの人がこの範囲の中に納まるといった範囲の事ですが、これも絶対のものではありません。中には、普段から何も問題が無くてご本人も健常人であるにも関わらず、この範囲の外にあるという人もいます。多くの人を調べてみて、そこから得られた個々の数値を統計学的に計算して求めるという手法で得るのが基準値や基準範囲ですから、中には外れてしまう例だってあるんです。もしも、全員が納まる範囲を設定したとすると、とても広い範囲をカバーしなくてはならなくなります。そんなに広い範囲を基準範囲としてしまうと、もしもその中に本当に異常をきたしている状態の人がいたとしても、初回の検査結果だと異常かどうかの判断が出来ません。多くの場合にスルーされてしまうでしょう。それではいけませんので、ある程度範囲を絞った状態にしておく必要があるわけです。
一般的な基準範囲の決め方は、ボランティアとして健常人を集めて目的の検査項目を測定して、得た結果を統計学的に処理をしたうえで、およそ 95 パーセントのデータが納まる範囲をもって「基準範囲」とします。キチンと行なうためにこういった処理を2回ほど繰り返して、極端なデータを除外していくのですが、どうしても 5 パーセントくらいのデータは範囲外(つまり異常値扱い)になります。その場合は再度検査を行って、異常値かどうかを確かめればよいわけです。ある程度厳しい基準を作っておかないといくらでも見落としが出てきてしまいますので、この辺りは仕方がありません。この基準範囲は、以前は医療機関ごとに少しずつ違っていたこともありましたが、最近ではほぼ同じような数値の範囲に揃ってきています。
ですから、健常人であってもある程度の範囲外の例は出て来ます。これは同じ医療機関で繰り返し検査を行って積み重ねてきたデータがあるからこそ、判断できることです。目移りして他の医療機関を受診すると、それまでの積み重ねてきた検査の結果や治療などの記録がありません。最初からいろいろと調べていくことになりますので、結構な負担を強いられることになるかもしれませんね。
さて、なぜ異常値が出るのかという事についても少し触れておきます。異常値と呼ぶ場合、いくつかのパターンがあります(もちろん、数値で報告される検査項目の話です)。一般論になりますが基準範囲に対して、それを上回る(数値が大きくなる)場合を異常値とする項目、反対に基準範囲を下回ったときに異常値と判断する項目、そしてもう一つが基準範囲を超えても下回っても異常値とする項目、この 3 パターンです。これは数値で報告される項目に限りますが、一般的な臨床検査を行った時の結果報告であれば多くの項目が数値による報告になりますので、この 3 パターンのどれかに当てはまることになります。これは項目によってだいたい決まった変化なので、覚えておくと便利ではないかと思います。理由を書いてみます。
一つ目は数値が大きくなったら異常値と判断する場合です。細胞の中に多く含まれている物質があったとして、それが血液中には少ない量しか存在していないようなモノの場合、細胞が壊れてしまうと中のものが血液中に出てしまいます。そのために、それほど多くないはずのモノが一気に大量に出回ることになるので、どこかの細胞や組織が壊れたのではないかという事になります。医師は壊れた場所を特定して治療にあたります。検査の項目によって、どの項目は身体のどの部分と対応しやすいかという事を知っておくと、項目を見ただけで判断がつくようになるわけですね。肝機能とか腎機能とかという言葉が付く検査項目は、そういったことを反映しています。
二つ目、数値が小さくなったら異常値と判断する場合です。これは細胞単位で産生していて血液中に放出をするようなモノが該当します。細胞が壊れるとその項目が産生できなくなるので、血液中に供給されなくなります。時間が経つことで代謝によって次第に少なくなってきますので、血液中の数値が少なくなってきます。このことから、異常値と判断するわけです。
三つめは基準範囲を超えた場合は、高くても低い方であっても異常値と判断する場合です。ごく狭い範囲に納まる項目なので、それだけ身体への影響が大きくなることも考えられます。ミネラルのようなモノ、私たちが電解質と呼んでいるNa・K・Cl などがこれにあたります。
中には、産生している場所には問題が起きていないとしても、腎臓のように体外に排出するところに問題があると体外に出せなくなるので、溜まってくることで数値が大きくなるといった場合もあります。
臨床検査の項目で化学分析の場合は数値報告になりますので、上記のようなことになるわけですが、そのためには先に採血を行って検査用の血液を確保しなければなりません。採血をされる患者さんの側では、採血時に用いる穿刺針(注射の針のようなモノ)は細いモノを望む傾向があるようです。しかし、穿刺針が細いと多少力を入れて引っ張らないと必要な血液の量を採取することが難しくなります。そのために力を入れて血液を引こうとすると、赤血球がパンクしてしまう事があります。溶血という言葉を使いますが、こうなると血清が普段よりも赤くなって、分析には使えなくなります。再度、採血することの了解をいただかなくてはなりませんので、初回からある程度の太さの針を使う事を了承していただけると、採血がいくらかスムーズに進むのではないかと思います。
採血だけを考えても、結構苦労があるんですよ。