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心電図検査
前回で検体を使った検査についての大雑把な説明はいったん終了にして、今回からは患者さんご本人を対象にした検査について書いていくことにします。その最初という事で、今回は医療機関を受診するときに頻繁に名前が出て来る「心電図検査」を取り上げます。
心電図検査はその名の通り、心臓の電気的な動きを波形の形に変換して記録する検査です。患者さんの心臓の様子を調べるために、描き出された波形の様子を見て判断します。波形のどこを見るかというと、形や大きさ(高さや低さ)、どんなタイミングかといった時間的なものや、そのリズムなどです。
心臓は一定のリズムで拍動しているのはご存じだと思いますが、呼吸や運動によって多少リズムが変化します。といっても、たいていは速くなったり少しゆっくりになったりする程度で、描き出された波形の形は特に変わることはありません。その他でリズムの速さが変わるとすれば、その人の精神状態でしょう。緊張すれば早くなりますし、リラックスすればゆっくりになります。この辺りの変化は誰にでも普通に起きる事なので、別に異常でもなんでもありません。一般的には、普通の状態である程度リラックスしていれば1分間に70~80回くらいの脈拍になるでしょう。この回数が多過ぎたり少なすぎたりすれば、その理由を考える必要が出て来ます。
また、描かれた波形のリズムでも、一定の形で続く波形の中に少し早めのタイミングで波形が出て来ることがあります。同じ形の波形の場合もあれば、少し違った形をした波形の場合もありますが、リズムが乱れた状態になるので不整脈と呼んでいます。一定のリズムとは別のタイミングで入ってくる拍動も頻度が少なければあまり大きな問題にはならないかもしれませんが、その頻度が多くなってくるとキチンと調べてみる必要が出て来ます。
波形の形や大きさという点で見ても、変化してくることがあります。形が変わるという事は心臓を構成している細胞を通る電気的な流れが変わってくるという事ですから、その原因を調べる必要が出て来ます。そういったことをいろいろと調べて疾患を発見したり診断したりするために心電図検査を行うわけですね。
その心電図検査、実はいくつか種類がある事はご存じですか。一般的な心電図検査は「十二誘導心電図」といった名前で呼ばれることもありますが、その名前の通りに12種類の誘導によって波形を描き出します。健康診断でも取り入れられているものなので、多くの人が一度は経験したことがあると思いますが、胸部に6個、両方の手首と足首にそれぞれ、合計10個の電極と呼ぶものを取り付けます。全部場所が決まっていて、またその位置も、そこに配置するケーブルの先の識別の色も決まったものになっています。それを間違えることなく取り付けるのですが、記録中は身体を動かしたりしゃべったりせずに、しばらくの間体の力を抜いてリラックスしていただきます。身体を動かしたりしゃべったりすると、それによって筋肉が動いて、それがノイズになります。キチンとした記録が取れなくなるので、しばらくの間だけ安静にしていただくわけです。とはいっても、ほんの数分で記録が終わるのが普通です。心電図検査をする部屋の温度が寒いとか、胸部に取り付ける電極が冷たいと感じる場合もありますので、この辺は良い心電図を記録するために技師の側も気を付けなければなりません。
ただ、考えてみると普段の生活は24時間全部を使っていますね。その中のほんの数分しか心電図検査では記録をしません。他のほとんどの時間のことが分からないので、それをカバーするために「長時間の心電図を記録する装置」というものがあります。ホルター心電図というもので、これは24時間にわたって記録を取り続ける心電図検査です。それによって、普段の生活の中でどんなタイミングで脈が乱れるのか、どのくらいの頻度で起きるのかなどを調べることができるんです。ただ、それだけの時間をずっと安静にしているわけにはいきませんので、少々身体を動かしてもノイズが入らないような工夫がされています。患者さんはこの装置を身体に取り付けたら、翌日の同じくらいの時間に取り外すまで普段通りの生活をしていただきます。この検査は身体的にはさほどの負担にはならないようですが、精神的には結構な負担を感じる方もいるようです。
もう一つは運動負荷心電図というものです。これは、心電図検査をしながら運動をしていただくというもので、かつては表彰台のような階段を昇ったり降りたりする運動をしていただくマスター法と呼ぶ方法が主流でしたが、最近では自転車を漕ぎながら心電図を記録する方法(エルゴメーター法)や、角度を付けた坂道のような台の上でベルトコンベアのように足元が動くなかで歩いたり小走りになったりしながら心電図を記録する方法(トレッドミル法)があります。
運動しながら心電図を記録するわけですから、どうしても多少のノイズは仕方がありません。最初に運動する前の状態を心電図を記録し、運動中の変化も記録しながら、そして運動を止めた後の経過もしばらくの間記録します。負荷をかけるわけですから、少々キツイ場合もあります。予約検査になる場合が多いので、事前に身体を動かしやすい服装で来院していただく事も含めて、いろいろな説明があるでしょう。
こう考えていくと、心電図検査もかなり奥が深いものですね。