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細菌の検査
今回は細菌の検査を紹介します。カッコよく「微生物検査」と言いたいところなのですが、ウイルスの場合は通常では培養が出来ないうえに、顕微鏡なども特殊なものになるので観察する事も出来ません。そのため、一般的に医療機関でウイルスを培養したり観察したりする検査は行っていないのが普通です。もしも臨床側から検査の依頼が出た場合は外部への検査委託を行う事になります。また、ウイルスについての検査としては感染しているかどうかの判断のために、抗体の有無を調べることが多いようです。医療機関は治療を行う場所ですから、そうなってくるんですね。
そのため、医療機関では検体を使ってどんな細菌が出て来るかを調べるのが一般的です。ただ、細菌検査もいろいろな設備が必要になってきます。また、検査をする特定の区画から細菌を外に出さないようにしないといけませんので、そちらもいろいろと設備が必要になります。そのため、細菌検査自体も外部に検査委託をする医療機関が多いのが現状です。
以上の説明だと、多少ブラックボックス的な場所という雰囲気ですね。そんな場所でどんなことをしているかについて書いていきます。
細菌検査を行う対象は一般検査で対象とした検体が中心ですが、それ以外の検体から検査を行うこともあります。目的とする細菌によっては、検査を行うまでに処理が必要になる場合も出て来ます。例えば、酸素に触れてはいけない種類の菌を調べる事もあります。また、室温では温度が低くて死滅してしまう可能性が有るために、ふ卵器を用意して、そこで検査を行うまで保存しておかければならない菌もあります。調べる前に菌が死んでしまってはいけないので、どうしてもこのような処理が必要なのですね。
実際に何らかの検体が届いたときに行う場合は、その検体の主(?)である患者さんがどのような状態であるかを知っておくことも重要です。それに応じて検体の種類が変わってきます。消化器系であれば便という事になりますし、膀胱炎や尿路感染症の可能性が有る場合は尿が検体として用いられます。その他、呼吸器系のトラブルであれば検体は喀痰になるでしょう。ここに挙げたものは一般的に検査対象になる検体ですが、それ以外にもいろいろと検査を行うことが出て来ます。これらは患者さんと直接やり取りをして情報を得た医師が判断します。
そうやって何を検体にするかが決まって、一定の手順で採取した後に、細菌検査を担当する場所に届けられます。その検体の扱いも含めて、搬送中も万全の注意が必要です。そうしないと周囲が汚染されることになってはいけませんから。
周囲の環境が汚染しないように検体を入れた容器をキチンと管理した状態で細菌検査室に搬送されると、依頼内容の確認が行われます。受付をするわけですが、この辺りは事務的な作業なので、詳細は省略します。
依頼を受け取って検体を確認したら、まずその状態を観察します。そのうえで、検査に用いる菌の量を確保するために培養をします。まず検体からどのような菌が出て来そうなのかを判断するためにも、顕微鏡を使って検体を観察します。細菌自体は非常に小さなものなので、顕微鏡の倍率を1000倍にして観察するのが一般的です。そこにどのような菌がいるのか、およその目安をつけたうえで本格的な検査を始めます。
検体に菌がいることは確かなのですが、これでは菌自体の量も少ないでしょうから、いったん培養して増やすというのは先に書いた通りです。そのうえで、その菌の性状を調べるのですが、細菌、場合によっては真菌も対象になりますが、これらはウイルスのように生きた細胞が無いと培養できないというものではありません。培地と呼ばれるものを使います。
菌が増えたら次の手順、そこから主な菌をピックアップして、その性状を調べます。そのようにして、どんな細菌なのかを特定します。細菌の名前が分かったところまでは良いのですが、医療機関で調べるからには、どのような薬剤や処置が必要かといったことにつながる情報も必要です。例えば、どのような薬剤なら効果が期待できるのか、反対にどの薬剤は効果がなさそうか、そういったことも一緒に調べたうえでの報告になります。
細かいところなどの詳細は省略しましたが、大筋でこのような事を行っているのが細菌検査室です。結構な内容の検査を行っているんですね。私は細菌検査を担当になったことはありませんが、ここで仕事をする臨床検査技師さんたちは検査室への出入りだけでも、毎日非常に手間のかかる作業を行っているという事は知っておいていただきたいと思います。なぜなら、仕事で使う衣服一つにしても、医療機関やその部署で決めたいろいろなルールがあるからです。
検査を行う時も、一定の区画内で行います。外部の人は、その区画には簡単には入れません。というよりも、入れてもらえないでしょう。うかつに誰かが入ってきては細菌による周囲への汚染や拡散につながりますので、医療機関によっては内側から施錠するなどのルールを設けているところもあると聞きます。作業中(検査中)も、決められた衣服で検査を行わなければなりません。まずは検査を行う自分が感染しないようにしなければなりませんので、防護服のようなモノを着て、マスクやメガネ、毛髪も混入しないように帽子などを使う医療機関もあります。
また、検査をする場所からそれ以外の区画に行く場合は、たとえ同じ細菌検査室の中であっても仕切りがしてあるでしょうから、手洗いを十分にしなければなりませんし、作業着である白衣や防護服のようなものも脱がなければなりません。そのまま他の区画に行ってしまうと、環境を汚染する可能性が出て来るからです。その施設のルールに従って着替えるなどをしなければなりません。ですから、そうそう簡単に休憩室に行くこともできないんですよね。
まだまだ探せばルールなどは出て来るでしょう。細菌検査を担当する臨床検査技師は、そういったことを毎日のように繰り返しています。こういったことも知っておいていただけると、医療に対する捉え方が少し変わってくるかもしれませんね。