Choosing Wisely
8、賢い選択
今回は炎症の話題と何か直接的に関係があるという訳ではありませんが、今このような思想が広がりつつあるということを書いてみようと思います。
「Choosing Wisely」と呼ばれる考え方で、「賢い選択」とか「賢く選ぶ」とか、そんな言葉が充てられています。アメリカで生まれたようですが、一言で表現すると「無駄なことはしない」という考え方です。
例えば炎症が起きていれば当然それを示すCRPや白血球数は数値が上がりますが、炎症があることが分かっているのならわざわざ検査をして調べる必要はないのではないか、それなら止めておくことはできないか、そんな議論をしようというものです。
患者さんの身体的な負担になりますし、経済的な負担も増えることになります。医療費や医療資源の無駄使いにもつながります。しかも、得られるものがごく少ないという訳ですから、行なうことにメリットがありませんよね。
今、世界中の医療関係者の中で静かに話題になっています。日本でも確実に広がりつつあるようです。
賢い選択を行なうための基本は、医療者と患者が対話を通して、今行われている治療が本当に必要かどうかを考える、というところにあります。その為には、科学的な裏づけ(エビデンス)は当然必要になります。そして、その患者さんに本当に必要なもので、しかも副作用の少ない医療(検査、治療、処置) を選ぶというものです。
科学的根拠(エビデンス)は大切ですが、その患者さんにとって本当に必要かという視点がとても重要です。端的に言うならば、根拠が乏しいまま行われている医療を見直して無駄な医療はやめましょう、そういう意図の運動です。
根拠の乏しい医療と聞くと違和感を感じる人も多いかと思いますが、慣習のように漫然と行なってきていることが医療の中でも無いわけではありません。ですから、今の医療の中でも少しずつ変化してきていることだって存在しているんです。
たとえば「お薬手帳」というものがありますが、これなどは賢い選択の実例と考えてよいモノだと思います。
複数の医療機関を受診する場合、それぞれで必要な投薬を行なうことになるのですが、お薬同士でも相性があるようです。
もし互いに変な影響を及ぼし合う薬を使うと、お薬の働きが悪くなったり、効きすぎたりするかもしれません。そうならないように、お薬手帳に使っている薬を書いてもらうのです。そして、いつも医療機関を受診する時に一緒に出して、必要なお薬を処方してもらうためです。
これは本当に大事な事なのですが、残念ながらこれを理解していない患者さんも結構いらっしゃいます。受診の時に、敢えてお薬手帳を持参してこない患者さんもいると聞きます。これでは身体の不具合が長引くかもしれません。
じつはこのお薬手帳、キチンと使わないと厚労省がペナルティを課すという話があります。余分なお薬を出さないため、飲み合わせで不具合が長引かないように、厚労省はお薬手帳の持参を推奨しています。そしてこれは、患者さん自身のためでもあるのです。
最近ではスマ―トフォンのアプリもあると聞きますが、これなら持参忘れは防げますね。ですから、ダウンロードして利用している人は絶対消さないようにしてください。