見出し画像

日記再開に向けて

2024年8月21日 快晴(北京)

このnoteをあらためて見てみると、以前の最後のエントリーは2021年の12月9日だった。あの頃の僕はいつも1時間くらいかけて日記をほぼ毎日つけていたが、その日以降パタっと書かなくなった。ちょうど清華大学計算機科学科の授業や宿題が難しくなってきて、レポートも溜まってきていたのに、日記なんかつけていて良いのかと思ったら全く書けなくなってしまったのだ。確かに大学の修士レベルの授業はついて行くだけでも大変だったし、清華は勉強以外にも出来ること・やりたい事が山ほどあって、本当に忙しかった。あれから3年弱の月日が流れ、僕はまた新たな転機にあるので、これを機会に日記を再開したいと思って書いている。

とりあえずこれまであったことをざっと振り返る。2022年はずっとコロナ禍の大学キャンパスの中で過ごした。6月までに卒業に必要な単位を全て(なんとかギリギリ)取得した。それと同時に修士論文・研究のテーマを『強化学習を活用した配車モデル(UberやDiDiのようなサービス)の改善』に決めて、指導教官を清華大学AI産業研究所(Institute of AI Industrial Research、以下”AIR”)の張亜勤所長とZhan XuangYuan准教授にお願いした。張所長は中国AI界のレジェンドのような方で、マイクロソフト・アジアのCEOや中国検索エンジン大手の百度のCEOなどを歴任した後、2020年に清華大学でAIRを立ち上げた。ちなみに僕はAIRにとって初めての修士国際プログラム(Advanced Computing Program、以下”ACP”)の学生だった。Zhan教授は深層強化学習の専門家で、やはり中国EC大手の京東など企業内研究の経験も豊富な方だった。

2022年の夏休みは北京市国際学生歌唱コンテストに出場したり、清華大学環境学部主催の模擬気候変動コンファレンスに参加したりして、コロナ禍の最中にあってもそれなりに充実したものだった。

2022年の秋学期はもう単位のために授業を取る必要がなくなったので、Zhan教授のゼミに所属してAI関連の新着論文の輪講に参加したり、興味のある講義を聴講したりした。清華大学の合唱隊に入ったのもこの頃だった。譜読み・リズム取り・調音などのオーディションを受けて、指揮者であるDin教授との面接のあと、通常入る2軍ではなくいきなり1軍に入れてもらった。それからは2年間(夏休みを除く)、金曜日と日曜日の午後6時半から午後9時まで毎週2回、120人の合唱仲間と一緒に練習した。彼らはほぼ全員中国人で、歌う歌もほとんど中国語の歌である。Din教授の指導も全て中国語で全然理解できなかったが、とにかく楽譜にピンインを振り見よう見まねで歌っていた。パートは男性低音部だった。

11月下旬の清華大学キャンパスでの白紙騒動から中国人学生の集団帰郷、ゼロコロナからウィズコロナへの方針転換などが矢継ぎ早に展開し、秋学期が唐突に終わった。そんな中でも清華大学での学生生活は本当に楽しくて、僕は通常2年で終われるACPを3年かけて卒業することにした。(留年ではなく、自主的な延長である、念の為。)ただ論文の執筆に関しては、深層強化学習を用いた配車プログラムが手を付けられないくらい難しくて、修士2年目をほとんど無為に過ごした。

2023年春学期の終わりに指導教官である張教授と面談し、修士論文研究が上手く行っていないことを白状して、かつ僕の興味が教育分野でのAIの活用に移ってきたことを告げた。ちょうどChat GPTやGoogleのGeminiなどの大規模言語モデル(Large Language Model、以下”LLM”)が流行ってきた頃で、LLMの活用分野として教育が有望視されていた。張教授は思いの外、この『教育分野でのAIの活用』というテーマを気に入ってくれて、「素晴らしいトピックだ。もしプログラムが不得意だったらそんなの書かなくても良いから、とにかく自分の思うようにやってみろ」と背中を押してくれた。それで修士3年目は2023年秋学期に教育現場での実習・研究、2024年の春学期には実験と論文執筆に邁進した。清華大学の要求する修士論文のレベルは高くてそれを満たすのは大変だったが、なんとか期限までに書き上げることが出来、口頭試問も上手くいって修士卒業の目処が立ったのが2024年の5月だった。幸いにもACPを6月30日に卒業し、晴れて清華大学計算機科学及び技術の修士号を得た。

この修士論文の研究を通じて、AI活用のための計算機科学者と活用分野の専門家(Subject Matter Expert、以下”SME”)との協力が重要であることを痛感した。特に僕の興味としては教育分野のSMEが必要なので、だったら自分で教育学を専攻するかと考えた。僕はこれまで、日本でゲーム理論、米国で財務・MBA、それに今回中国で計算機科学を専攻・研究してきたので、今度は欧州で教育学の修士プログラムを探した。国としてはデジタル先進国のエストニアを選んだ。エストニアは人口130万人ほどの小さい国だが、1991年のソビエト連邦からの独立以来、国家戦略的にデジタル政府・産業構造改革・起業エコシステム構築などに力を入れていて、GDPを30年で30倍にした国だ。エストニアの国をあげてのIT立国化に教育がどのような影響・貢献を与えたのか、現地で実際の専門家たちの経験を教えてもらいたいと思っている。さらにそこからAIを活用した新しい教育モデルやサービス事業を創造したい。

もう一方で、欧州の政治・経済・社会・技術などの現状・トレンドなども直接の経験を通じて理解したいと考えている。長く続いた米国のグローバル一強体制・日本経済の失われた30年の低成長・中国経済の成長からの急減速などでそれぞれの国が国家システム疲労ともいうべき状況に直面する今日、責任と権限のバランス・国際協調などに議論を重ねて力を尽くしてきた欧州の国々からさらなる考え方や視座が得られるのではないかと思うので。エストニアはEU加盟国でありユーロとシェンゲン協定が通用するから、西欧・東欧・北欧、あるいはトルコなどもこの機会に訪れたいと思っている。

今僕はイスタンブール経由でエストニアの首都、タリンに向かっている。タリン大学で今月末から始まる『Educational Innovation and Leadership』という2年間の国際修士プログラムに入学するためである。中国では足かけ17年で微信というSNSに3,600人以上の友だちがいたが、エストニアにはまだ行ったことも無く、直接の知り合いもゼロ。でも不安よりも期待と興奮が勝っている。Dear Tallinn, here I come!

以上、ここ3年弱の僕の近況を駆け足で辿った。もともとこのnoteでの日記は中国・北京・清華大学・計算機科学・AIなどを自分の経験を通じて紹介したいと思い始めたものだ。まだまだ書き足りない経験や物語もあるので、これからおいおい紹介したい。同時にこれからは、欧州・エストニア・タリン大学・教育学などに関しても発信・紹介して行きたいと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?