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清華大学軍楽隊(THUMB)の話

清華大学には清華大学軍楽隊(Tsinghua University Military Band、通称THUMB)というブラスバンドがある。1916年から存在する由緒あるバンドだ。先々週の木曜日(だったかな?)に僕のいつもの通学路を自転車で通っていたら、デモ演奏している人たちがいて声をかけてみた。僕はベースギターを弾くので、入隊したいと言ったらその日の午後2時から入隊試験、いわゆるオーディションがあるという。で、行くと言ってその場を離れる。

2時頃に指定された学生文化活動センター(建物を寄付してくれた人の名前をとって蒙民仏というビル)に行く。建物の前でTHUMBの応募生の受付をしている。そこで書類に記入して希望楽器はエレクトリックベースだと言うと、そんな楽器は無いと言われた。あ、じゃあこれで話は終わりですね、と帰ろうと自転車に乗ったら誰か他の人が駆け寄ってきて、やっぱりオーディションはすると言う。よく状況が理解できないが、まずは連れていかれるままに建物の中に入る。中ではバレー団とかオーケストラとかいろんな部活動の入部試験が行われていた。さらに中に入るとTHUMBのエリアになる。まず全体練習が行われるであろう大部屋でいきなり、顔と口、それに歯並びの写真を撮られる。その後順番を待っていると呼ばれてマンツーマンの一次試験。ここでは譜読みとメロディの音声化、リズム取りの試験をされた。一応合格。ここで少し他の用事をしてからセンターに戻ると別室で二次試験、これが面白い。さすが清華大学だけにコンピュータで聴覚とリズム感の試験を行う。二つの音の高低の判別と毎分80拍・100拍・120拍を20秒間正確にコンピュータに入力する。誤差の範囲内で出来たようで合格。次はピアノの部屋に連れて行かれてメロディ聴き取りと復唱、それに和音の聴き取り。4和音まで行ってギブアップ。でも合格。

その後、(元?)隊長との面接。基本的に僕は面接まで行った試験は落ちたことがないので余裕である。その場で彼から衝撃の発言。エレキベースは5年前まであったが、最近は弾くメンバーがおらず忘れ去られていたとのこと。で一緒に楽器を探しに行く。あった、ありました、大部屋の奥にHartkeの150Wのアンプとともに白いベースが眠っていた。音を出してみたが、全く問題ない。いける。が、ここでまた衝撃発言。『おめでとうございます。あなたは合格です。でも今学期の曲は全て既に決まっていてその中にベースのパートはありません』とのこと。まあ僕は友達作りに来ているだけだから全く問題ない。ありがとうと言って帰る。帰りがけに副隊長に声をかけられて、次の練習は中秋節休みの振替登校日の土曜の夕方だと言われた。その土曜日は登校日だから19:20から授業があるが、様子を見に最初だけ行く、と言って去る。

帰りがけにセンターのビルの中のカフェエリアで偶然ギター協会の会長と遭遇。その場で彼から日本人の清華大学卒業生を紹介された。この日本人卒業生は以前、清華大学日本人会の会長をしていたということで、仲良くなる。(ギター協会にはその後、入会することになるのだが、それはまた別の話。)

9月18日の土曜日の18:00に蒙民仏に行く。皆んな集まって音出ししている。僕は1番後ろの高い席から見学する。18:30に指揮者が来て練習開始。おっと、彼だけオーラが違う、モノが違う。音程やリズムが異様に正確、彼の後ろに楽曲のイメージが浮かんで見える。こんな人が清華大学にはいるのかと思ったら、やっぱり北京で最高の音楽大学の指揮科の教授に来てもらっているらしい。この辺もさすがである。この日は約束通り、19:00に出る。

中秋の明月の日、9月21日に新入生のミーティングがあると言われていたので、18:00に蒙民仏の中の講堂に行く。ここで延々2時間、THUMBの歴史やこれまでの活動、禁止事項などに関する説明を受ける。清華大学は優等生の学生が多いので皆文句も言わず熱心に聞いている。隣に英語の達者なチューバ奏者の先輩(といっても僕よりはるかに年下)が座っていて、内容を説明してくれて助かった。で、20:00から新入生一人一人の入隊の儀式。それぞれに指導教官のような先輩が指名されて、その先輩に儀式的にお飲み物を渡し、先輩から入隊証をもらう。(僕は特別枠だし、先輩もいなかったので儀式なしだった。)

新入生は皆、S(独り者)、C(カップル)、A(募集中)、U(間に合っている)の中から2つ選んで宣言する。例えば恋人募集中だと、SAなどと言う。勉強に専念するという、SUの強者も結構いる。

THUMBには一軍、二軍、それ以外の人々、と三つのステップがあり、この新入生たちは昇格試験まではとりあえずそれ以外の人々扱いだ。僕の立場は結構微妙で、来季の選曲に期待しつつ、今季はパーティや懇親活動に専念する。さまざまな局面でいつも思うのだが、清華の学生は皆、とてもフレンドリーで優しい。これからの学生生活がまたさらに楽しみになる。

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