
『ドナウよ静かに流れよ』ノート
重い重い物語でした。渡辺日実(かみ)さんという19歳の女性の初めての恋愛と、その恋愛が昇華したかのような千葉師久という妄想に生きなければならなかったほどの弱さを持つ男性への慈しみ(聖母マリアのような)とある種の共感…彼女の自分の心を裏切れない、自分の思いの矛盾を飲み込めない純粋さと繊細さ…少女から大人へと変容する時期の精神と肉体のアンバランス…母親の故郷のルーマニアへの留学というあまりに過酷な環境での生活…。父親の不倫がきっかけの夫婦間の諍い、それをまた増幅した両親の育った国の違い、同級生の悲惨な死にざまなどが思春期の日実さんに与えた影響(「私は19歳で死ぬ」との思い込み)が千葉との心中を必然的なものにしたと思えます。
渡辺日実さんの妄想への同化の行動を止められたか、止められなかったか。父親(正臣)は「止められる」と言い、母親(マリア)は「止められない」と言う。この食い違い(欧米人の個人主義と日本人との大きな相違)。自己責任という言葉だけで済ませることが出来るのか。