『あるかしら書店』ノート
ヨシタケシンスケ著
ポプラ社
不思議なタイトルのこの本は、職場の近くにある書店にぶらりと立ち寄った時に見つけたものだ。
表紙のほんわかとした絵がなんとも心地よく、開くと見返しにまでイラストがあり、本文もイラストと手書き文字がまたほっこりとしていて、ついついページをめくってしまい、全て立ち読みしてしまいそうだったので、購入した。
本の帯(今は知らないが、私が出版業界にいた頃は、〝腰巻き〟と呼び習わしていた)には、「30万部突破のベストセラー! 25万人の小学生が選んだ〝こどもの本〟総選挙第2位」と書いてあった。因みに第1位が何かは調べていないのでわからない。
そうか、子ども向けなのか、いい年こいたジイサンが買う本ではないのかと思いながらも、そんな帯の惹句には関係なく、年齢を問わず面白いものは面白いのだ(と開き直ったのである)。
最初のお客さんは、年齢不詳の女性で、「なんか、ちょっとめずらしい本ってあるかしら?」と本並べの作業中の店主に聞く。すると店主は本棚から何冊か出してきて、「たとえばこんな感じ、どうかしら」と本の説明を始める。
『「作家の木」の育て方』…育て方の手順が書いてあるが、最後に、「うっかり他の木をホメると、スネて実をつけなくなります」とちょっぴり自嘲気味なところが笑ってしまう。
『二人で読む本』…上下2巻に分かれているが、普通の上下2巻ではなくて、それぞれ上半分と下半分しか書かれていないので、2冊を上下に並べて同時に開かないと読めない仕掛けだ。でも、恋人同士も最初はいいけど、読む速さが違うと、喧嘩になりそう。たしかに一人で読むには不便極まりない。
次の客は、「なんかこう本にまつわる道具ってあるかしら?」と店主に聞くと、即座に「これなんかどうかしら」とカウンターに並べる。
『読書サポートロボ』…あなたの読書をよりよいものに! 「ヨムロボくん」新発売! ベンリな機能満載!
何をするロボかというと、うるさいところで耳をふさいでくれる(ヘッドフォンのように両耳をふさいでくれる)。励ましてくれる(読みあきた人に、「ここまで読んだんだからガンバロ! あとちょっとじゃん!」と励ます)。(本の上につっぷして寝ちゃった人に)「チョット! 本が傷む!」と起こしてくれる。しおり機能付き(イラストをみて、本屋の店頭で笑ってしまった。はずかしー(^_^;)
次のお客さんが、「本にまつわる仕事の本ってあるかしら?」と聞き、出してきたのが、『読書履歴捜査官』、『カリスマ書店員養成所の1日』、『本のタイトルと、その正しい並べ方』、『本のつつみ方』、『文庫犬』、そしてこの章の最後は、『本とのお別れ請負人』。これには身をつまされる思いがした。
請負人である学者然とした年配の男が自宅に来てこう言う。「あなたは素晴らしい本をお持ちだ。しかしこのままでは本が傷んでしまう。……失礼。私はセンスのいい本棚保管財団のものです。実はこの本を選んだ〝あなたのセンス〟そのものを、本棚ごと最高の環境で保管させていただきたいのです」。
持ち主は請負人の説得に負けて、「…はい…よろしくお願いします…どれもいい本なんです…」と大粒の涙を落とす。
持ち主が「これでよかったんだ…」の涙を流しているのを尻目に、奥さんは、その請負人に、「おかげで部屋が片付いたわ!」とお礼をいい、なにがしかのお金を受け取る。去って行くトラックの横には、《持ち主の心のケアを第一に――ハートフル古書流通》とあった。
まだまだ面白い発想が満載の本だ。
この本の掉尾は、出版社の編集者が来て、「必ず大ヒットする本のつくりかた」みたいな本って…あるかしら?!」と言う。それには店主も困って、「あー。それはまだ無いですー」と答える場面はスパイスが効いている。
よく見たら、帯が何故か二重に掛けられていて、もう一つの帯には、「おとなも子どもも楽しめる、魔法の1冊!」と書いてあった。