『あざやかな女たち』ノート
佐田智子著
すずさわ書店刊
この本は、高度経済成長の神話が終わりを告げ、低成長経済と呼ばれる時代に入った1983(昭和58)年に刊行された。著者は1946年生まれの朝日新聞社会部の記者である。
いま読み返すと、社会全体が、見せかけだけの豊かな生活から訣別し、一人ひとりが自身の足元をみつめ真の生きがいを求める時代になる転換点であった。
いまほど女性が自分の生き方を深く考えるようになった時代はない。特に、女性にとっては、平均余命の伸びによる高齢化社会の現出、晩婚化、非婚化それに伴う出生率の低下などの要因もあって、家事・子育てに縛られた従来の生き方から、自身の老後も含めての多様な生き方を考えなければならなくなった。
女性記者が会った39人の多彩な女性たち――社会の第一線で活躍する人、農・山・漁村に生きる人、地域の伝統に生きる人、海外で暮らす人などに、「この人生をどのように面白く生きているのですか」と問いかける。年代は、明治30年生まれの人から、一番若い人で昭和20年生まれまでと幅広い。
冒頭に取り上げられている写真家の大石芳野をはじめ、初の女性大使に就任した高橋展子、文化人類学者の原ひろ子、産婦人科医の根岸悦子、女優の白石奈緒美、建築家、音楽家、作家、文化人類学者、TVプロデューサー、アナウンサー、助産婦(助産師)、海女などなど――職業を持つ人だけではない、主婦10年生になったところで、「受験戦争を体験したくて」大学を受験して合格し、中央大学法学部を卒業したが、次は司法試験に挑戦し、8年目に合格した人。子育てのかたわらランニングをはじめ、フルマラソン3回目にして日本タイ記録をつくった主婦ランナー。老人ホームや病院、身障者施設などへのボランティア活動を6年にわたって続けている主婦。カルチャーセンターに通い始めたことがきっかけで、社会的視野を広げ、自分の可能性を追求している主婦などが取り上げられている。
この本が刊行された40年前と較べると、いまは女性の社会進出がはるかに進んで、職業を持つことが当たり前になり、経済的自立は以前より容易になっているが、ジェンダーの壁を乗り越えられない、いや乗り越えさせないような時代風潮のなかで、自身の将来像をどう描くのか迷っている女性も多い。
佐田智子がインタビューした人たちの共通点は、どんな立場であっても、それを基盤にして、よりよく生きる方法を見つけ、それを実践していく態度である。
彼女らの生き方は、家事・育児と仕事との両立の仕方、仕事の見つけ方といったことから、心の持ちよう、生きがいとは、といった問題まで、いまに生きる女性だけではなく、男性にとっても多くの示唆に富み、真の自立とは何かを考えさせてくれる多様な女性の生き方の物語である。