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『警視庁公安部外事課』ノート

勝丸円覚著
光文社刊

 著者の勝丸円覚氏は、1990年代に警視庁に入庁し、外務省に出向して、アフリカの某国大使館に赴任した3年間を除くと、20年間警察官として勤務してきた。2000年代の初めに公安に配属されてからは、一貫して公安、外事畑を歩んだ警察OBで、この本が初の著書である。

 警視庁公安部といえば、学生運動が活発になった昭和30年代から40年代は中核派、革マル派などのいわゆる極左暴力集団が捜査対象であったが、その後は危険な反社会的カルト宗教団体、右翼団体など、社会構造の変化に伴って変わってきた。
 オウム真理教事件や國松孝次警察庁長官の狙撃事件(未解決)で警察内部の刑事部と公安部の対立が表面化して、公安部という存在が私たち一般市民の知るところになったが、公安部はわが国の平和と安全を守るため、決して表面に出ることなく、〝身を粉にして〟(著者の表現)働いている現状を知ってもらいたいと考えて書いた実録である。

 私が今年の3月にnoteに書いた『鳴かずのカッコウ』ノートでも触れたが、警察庁警備局(警視庁では公安部に該当する)はわが国の情報コミュニティーの一角を占める「監視」と「情報収集」に携わる実働部局である。その中で「外事課」は、主に駐日各国大使館や領事館などに関わる部署で、ウイーン条約による外交特権で守られている外国の大使や領事、大使館員、領事館員が起こした問題の処理を所轄の警察署と協力して表立って、あるいは先方の事情により秘密裡に処理する役割を担っている。
 その役割を果たすために、著者は時間の許す限り、大使館へ足を運び、各国のナショナルデー(独立・建国・革命などの記念日)の大使館主催のパーティなどにも顔を出し、全ての大使館に24時間いつでも対応してもらえるコンタクト・ポイント(連絡窓口役)を確保する努力を続けて、その職務がよりスムーズに行われるように準備を怠らなかった。

 著者の経験談がいくつか語られるが、外交特権を利用して、外交行嚢を密輸品の輸出入に使って金儲けをしたり、借り上げたマンションに、警察に踏み込まれないように「〇〇国大使館」の表札を付け、その部屋でバカラ賭博をやったり、大使館や領事館の公用車や館員などの私用車に交付されている青地に白の「外」か「領」の文字が付いているいわゆる青ナンバーの車が起こす交通事故などの処理にもあたったことが書いてある。珍しいケースでは某国の高位の軍人の亡命を巡る問題も扱っている。
 さらには、防衛庁(当時)の元陸将がソ連に機密文書を渡していた問題の処理についても書かれており、興味は尽きない。

 わが国は「スパイ防止法」がなく、スパイ天国だとよく言われるが、公安警察が現行の条約や法律を駆使し、ある時は現場での臨機応変の知恵を発揮して、日々わが国の平和と安全保障体制の裏方としてその役割を果たしていることということがよくわかる著書である。

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