「世界陸上の始まり」のウソ
はじめに
2023年5月11日、テレビ番組「世界陸上2023 ブダペスト」のMCが発表された。
江藤愛・石井大裕の両アナウンサーが総合司会を務める。
織田裕二さんが前回大会を最後に降板したのは残念だが、理解はする。
なぜなら、若返りが必要であることに加え、時差の関係で大半が深夜の放送となるため視聴率が期待できないからだ。
ところで、「世界陸上は1980年モスクワ五輪のボイコットがきっかけで始まった」という言説がある。
これは日本語版WikipediaやTBSの番組公式ホームページに記載され、複数回発信されている。
実はこれはウソである。
なぜなら、世界陸上の開催はモスクワ五輪よりも前に決定していたからだ。
時系列がおかしい
大会設立当時から大会スポンサーを務める日本企業、TDKのサイトに以下のような記載があった。
この記載によれば、世界陸上の開催決定は1978年だったことになる。
モスクワ五輪ボイコットのきっかけとなる、ソ連のアフガニスタン侵攻はその翌年の1979年だ。
もし、モスクワ五輪のボイコットを契機に世界陸上が開催されたのなら、誰かが1年間タイムスリップしていなければいけない。
しかし、そんなことがあるはずはなく、モスクワ五輪のボイコットと世界陸上の創設には因果関係がないことが分かる。
第1回の前の2大会
世界陸上の大会創設がモスクワ五輪を契機としたものでない、理由はもう1つある。
それは、1976年に最初の(≠第1回)世界陸上が開催されていることだ。
世界陸上は1983年にヘルシンキで第1回が開催されたが、
その前の1976年と1980年に以下の一部種目(非五輪種目)が開催されている。
(以下のように開催された記録も残っている)
真相
TDKのサイトの「1978年に世界陸上の大会創設と開催地を決定」という記載は果たして合っているのか。
その答えは世界陸連のPDFに記載があった。
以下はその要約(一部筆者の補足あり)である。
つまり、開催地決定までにボイコットの呼びかけがあったが、開催自体の決定には無関係だ、ということだ。
またヘルシンキは、シュツットガルトとの招致レースの際に、フィンランドが中立国であるためボイコットの心配がない点をアピールしたそうだ。
つまり、モスクワオリンピックのボイコットは世界陸上の大会創設には関係がないが、開催地決定に影響を及ぼした可能性がある、ということだ。
余談:AIに聞いてみた結果
いい答えを見つけるのに苦労したので、AIに聞いてみた。
ChatGPT
回答:モントリオール五輪のボイコットがきっかけ
確かに1976年のモントリオール五輪では、ボイコットが発生している。
原因はアパルトヘイト絡みらしい。
その中にはケニアが含まれる。
当時、400m以上の種目でケニアはメダルを獲得しており、可能性はゼロではないと私は思う。
Bard
回答:モスクワ五輪のボイコットがきっかけ
これは明らかな噓である。
まとめ
世界陸上の開催はモスクワ五輪よりも前に決定していたので、
「世界陸上は1980年モスクワ五輪のボイコットがきっかけで始まった」は噓である。
つまり、モスクワ五輪と世界陸上創設の間には因果関係はなかったのだ。
しかし、開催地の決定には影響を及ぼした可能性がある。
そういった状況のなかで、第1回から「政治と分離した世界一決定戦」意味合いを持った、という解釈することもできる。
事実と解釈は別物である。
これらを区別しよう。
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