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【緊急】フライングの判定ルールには不備がある

世界陸上オレゴン男子110mハードル決勝。
アメリカ代表のデボン・アレンが不正スタート(いわゆるフライング)で失格となった。
彼はアメフト(NFL フィラデルフィア・イーグルス)と陸上(110mH)の二刀流で話題になっていた現地での人気選手だ。
しかも今年世界歴代3位のタイムをマークし、会場が母校オレゴン大学とあって、彼には大きな期待が寄せられていた。
その彼がフライングをしたのである。失格となったのはスタートの反応速度が「ギリギリアウト」だったためで、「これくらいはいいだろう」と観客からブーイングがとんだ。
しかし、自分の考えは違う。
これはルール通りの裁定ではあるので、自分は異論はない。
しかし、ルールに重大な問題があるということが浮き彫りになったと考える。

現状のルールの確認

現状のルールは号砲から0.100秒以内にスタート動作を開始したら不正スタートとなっている。これは医学的根拠に基づくらしい。問題は「0.100秒という値が妥当か否か」である。私は妥当ではないと考える。

2009年の研究

その根拠が当時のIAAF、現在の世界陸連から委託された研究チームが2009年の1月に発表した研究だ。実際の論文は以下で確認出来る。

https://www.researchgate.net/publication/278022260_IAAF_Sprint_Start_Research_Project_Is_the_100_ms_limit_still_valid

概要を一部抜粋する。

They recommend that the 100 ms limit be lowered to 80 or 85 ms and that the IAAF urgently examines  possibilities for detecting false starts kinematically, so that judges’ decisions are based on the first visible movement regardless of the body part.

IAAF Sprint Start Research Project: Is the 100 ms limit still valid?

日本語訳するとこうだ。

彼ら(研究チーム)は100msという制限を80msまたは85msに引き下げること、そしてIAAFに体の部位に関係なく最初に目に見える動きに基づいて審判が判断するよう、運動学的にフォルススタートを検出する可能性を早急に検討することを提言しています。

さらに論文の中を読んでみると、人は号砲から0.100秒以内に反応できるとしていて、しかもそれを示唆する先行研究が少なくとも2つ(PAIN & HIBBS, 2007)(BROWN et al., 2008)あるようだ。
この研究は世界陸連のホームページにも掲載されているし、認識されていることは間違いない。しかし、0.100秒という制限値は変わることはなかった。

リアクションタイムが早すぎることによる失格例

今回のデボン・アレンのリアクションタイムは0.099秒であった。
日本でも、先ほどあげた研究通りのルールだったなら失格にならなかったであろう例がある。ここでは2つ例を紹介する。2つともアレンと同じ110mHの選手が引き起こした例だ。

2019年日本選手権男子110mハードル準決勝1組

当時日本記録保持者だった金井大旺が0.099秒でスタートを切り、失格となった。
今回のアレンとリアクションタイムが同じで、かつ本人に不正スタートの自覚がない、という点で共通している。

2020年日本室内選手権男子60mハードル決勝

これは8人中4人が失格となり、ネットニュースにもなったレースだ。
デイリースポーツの記事によれば、1回目に失格となった3人のリアクションタイムは0.087秒、0.099秒、0.099秒であった。

これから

日本選手権での金井の失格の際に、金井を指導していた苅部俊二氏はこう語っていた。

これでみんなわざと遅く出るようになると、陸上競技がおかしくなる。0.1秒以内で反応できる時代なのかもしれない。『0.1』を考え直す何かいいきっかけになったら

人はどこまで速く反応できるか 人知超越の0.001秒フライングでルール再考の必要性

あえて言おう。既におかしくなっている
号砲を聞いてスタートする競技ではなく、号砲から0.1秒待ってスタートを切る競技に既になっている
それを解決するために、まずリアクションタイムの制限値の引き下げが必要だ。

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