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2番目の猫

私がこむぎを飼い始めてから1年後

家の外は陽炎が揺らぐ猛暑でした。
家の裏には草が生い茂り、ぽつんとベンチのある広場のような所がありました。

学校から帰り、その広場の前を通るとなにやら小学生が集まっていました。

気にもとめず通り過ぎようとすると「子猫だ!!ちっちゃい!!」と騒ぎ声が耳に入りました。

猫飼いとしては気になる会話、ふと視線をやると小学生に囲まれ、声に驚き狼狽える黒い子猫。

私は急いで小学生に割って入り子猫の傍に寄りました。しかしこの子猫は逃げないのです。

よく見ると結膜炎で膿が大量に目から湧き、その膿が固まってしまい両目が開かなくなっていました。鼻も鼻水が固まって塞がり、この子が逃げられない理由が分かりました。

小学生が盛り上がっている中、空気も読まず私はその子を抱えて少し離れました。
すると名残惜しそうに小学生は居なくなり、その後元いた場所に戻しました。

家に帰り親にさっきあったことを話して部屋に戻ると
「あの子何も見えてないし匂いも分からないのに生きていけるのかな」
「人の匂い付けちゃったけど大丈夫かな」
とどんどん不安に。
次の日猫を探すも見当たりませんでした。

更に母が町内会に出た時、
「黒猫が2匹の子猫を連れている、最近野良猫が増えたから駆除呼ぼう」と話が出たそうです。

きっとあの子は逃げられない。そう思い不安で仕方ありませんでした。しかしそれは私だけでは無かったのです。

学校から帰る電車の中、母からLINEと写真が送られてきました。

「もう捕まえた。今お風呂に入れてる」

とビショビショのあの子猫が写っていました。母猫の後ろを元気な方の子猫がついて行くのを見つけ、周りを探すと両目が見えない子猫は離れた場所でもう自分では動けず、火傷しそうなコンクリートの上でうずくまっていたそうです。

もうダメだと思い、母は保護したそうです。
急いで帰りその子猫を見るとガリガリに痩せ、顔の骨まで浮いて見える子猫が弟の服に包まれて寝ていました。

病院に連れていくと本来の体重の半分もない、今は食べられるだけ食べさせてあげて欲しいと言われました。

また目を開けてレンズで検査すると細菌によって眼球に穴が空いている。治療しても見えるようになるかは分からないと言われました。

ノミとダニもたくさんついていて、恐らく匂いが分からないためお乳も飲めていないようでした。

涙がでそうでした。絶対に元気にしたいと願いました。

私が飼い主として飼うことにはなりましたが、家族みんなでこまめに給仕しました。自分でごはんを見つけられないため、口に生餌を擦り付け、ペロペロと舐めたタイミングでお皿を口元に持っていく。そうすると自力で食べてくれました。

一日に4~5回ほどぬるま湯で乾いた膿をふやかし、目を開かせ、薬を眼球に付け、瞼で馴染ませる。猫風邪の薬をシリンジで飲ませる、大変でした。

それでもそれに答えるように元気になっていき、目が開いた時は家族で写真大会になりました。

それからはすくすくと育ち、名前は
「おそば」
と名付け、元気な大きい男の子に育ちました。

やはり目は完治せず片目に白濁は残っていますし、慢性的な猫風邪により鼻水くしゃみ、流涙もあります。

それに食べ物が食べられなかった反動でこむぎのご飯は横取りするのに、一切運動しないためやや肥満です。ですがあの時ガリガリだったおそばを思い出すと胸を撫で下ろすのです。

でも長生きして欲しいからこれ以上は太っちゃダメ。
あの時頑張って生きてくれてありがとう。


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