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「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21」 at 東京都写真美術館:感想

 先日、アレック・ソス展と、新進作家展が開催されている、東京都写真美術館を訪れました。どちらも話題の展覧会。

 今日は「現在地のまなざし日本の新進作家 vol.21」の感想を書いていこうと思います。

大田黒衣美さん

 もふもふな猫の背中の上に、板ガムをくりぬいた画を乗せた、クローズアップ写真。なんともユニーク&かわいい。板ガムの色がビンテージのセメント?ぽくてかわいい。
 「…小刻みに揺れる毛並みで….温かい猫の熱で…寝姿を変化させる猫の上で、ガムの画は出来ていった。」とキャプションにありました。ぜひ、その様子を映像で見たい…!

かんのさゆりさん

 主に、宮城県のランドスケープ作品。作家さんも宮城県の出身だそう。震災後の復興途中である道路や新興住宅地の様子が写されていました。
 厳格なルールに従って撮影されているであろう写真群は人工的な印象で、一昔前のゲーム画面のようにも見えました。雰囲気が教習所のシミュレーターみたい。多くの住宅で使われている、「レンガ風のパネル壁」「ウッド調の扉」みたいな、「〇〇調、〇〇風」のものが、余計にそう見せているんでしょうか。
 また、道路もきれいに整地されているかと思えば、いきなり土がむき出しの土手になっている写真もあって、3Dアクションゲームのマップ外エリアのよう。
 キャプションでは、故郷の風景が変化していくことについて考察されています。「風景は私たち自身を映す鏡のようだ」という一文が印象的です。この写真群を見て、懐かしいと感じるのか、よそよそしいと感じるのか…私は、元転勤族で故郷がないので「一昔前のゲームのようだ」と感じたのかもしれません(ゲーム画面は引っ越し先にも変わらずあり続ける)。
 「故郷」という言葉が持つニュアンスは、ニュー・スタンダードな風景とともに変化していくんでしょうか。色んな人と感想を交換すると、また楽しい写真だろうなあ。

千賀健史さん

 写真の物質性を、「特殊詐欺グループによる一連の犯罪」というストーリーに乗せて、鑑賞者に訴えかけている展示なのかな?と思いました。
 水で溶ける顔写真、ドキュメンタリーなんでしょうか?ブックには詐欺を行っている様子が、さながら犯罪小説のように書かれています。手錠などを素材に使ったフォトグラムのようなプリントも印象的です。
 綿密に構成されながら、断定的な表現および言及を避ける作品は、テレビの報道よりも犯罪が身近に感じられました。昨今の「闇バイト」報道もあってか、背筋が薄ら寒くなります。
 「見えないものへの想像は見えるものが止めるだろう。」とキャプションに書いてあるとおり、写真が持つ、ある種の詐欺的な側面へ警鐘を鳴らしているように受け止められました。難しかったです。

金川晋吾さん

 2つのシリーズが展示されていました。どちらも、他人との関わり方を丁寧に編み上げていくような写真に見えました。
 どちらのシリーズも、私では想像できない家族のかたちなんですが、文章からは親近感がわいてきました。「自分が他人との関係において何を望んでいるのか。それは具体的な他人があってこそのことであり、具体的な関わりの中でやっと見えてくるものだ。」そんな言葉に、ふと肩の力が抜けるような気分。単純なようでいて、難しく、忘れがちなんだよなあ。

原田裕規さん

 不用品として回収された大量の写真の山から一枚ずつ取り出して、一定の時間見つめ続けていくというパフォーマンスを記録した映像作品。映っている写真は、何かの記念写真風だったり、社員旅行と思しき写真だったり。他人の人生の一コマで、しかも持ち主からは「不要」とされてしまった一コマを、見つめ続けることになります。
 「ある時期から、写真で目にした知らない人が夢に出てくるようになった。」という一文には、思わず笑ってしまいました。同時に、写真が持つ、人間への影響力というか…純粋なイメージのパワー?みたいなものが感じられてちょっと怖かったです。
 展示室を出た先に、実際に不用品とされた写真が展示されており、手にとって眺めることが出来ます。注意書きに「写真に覚えがある方はスタッフまで」とあったので、ちょっと探してみちゃいました(何も見つからず)。
 そして、この不要な写真には故人が写っているものが多いのだそう。亡くなってから、その故人のイメージの、プライベートな写真が、こうやって全くの他人である私の目に入っている…不思議です。
 しかし、こんなに知らない人の日常写真を見る機会ってなかなかありません。意外と見覚えのある一場面が多いものでした。親戚の集まりや、友達とのツーショット、何かの発表会…。自分の家にも、似たような写真があるぞ。確かに、見続けていると知らない人と一緒に親戚の集まりをやった記憶になってしまいそうでした。こわい。ほぼ呪術。
 プライベートな写真が不用品として回収されてしまい、その持ち主は故人であることから推察すると、もしかしたら故人は身寄りなく、孤独だったのかしら…と寂しい気持ちになりました。プライベートな写真は、家族や親しい人がいれば焼却するなどして処分すると思うので…。

 色んな哲学を持った写真を一同に見れて、面白い展示でした!特に、かんのさんと原田さんの作品が印象的で、写真らしい表現に感じられて好きです。




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