おひつじ座14度 サビアン
男女のそばでとぐろを巻く蛇
子どもは父親にぴったりくっついて離れなくなってしまいました。
父親と一緒に店の片づけをしています。旅人は小さく手を振って、裏路地の隙間から見えた、もう一本先の通りに出ることにしました。
通りの脇の公園のベンチで肩を寄せ合う男女に旅人は既視感を覚えました。
遊歩道を歩いていた二人だと気づいたときに、二人の近くに黒い縄状の何かがうごめくのを見ました。上の方から細いものがちらちらっと出て引っ込みました。目を凝らしてみると、蛇がとぐろを巻いていました。
「ひっ」
旅人は小さく悲鳴を上げました。
「へ……蛇」
「ほんとだ、蛇っ」
声に振り向くと、子どもが父親の後ろから顔を出しました。
「気づいてないな」
父親はベンチの方に知らせに行きました。
「大丈夫かな」
「蛇はとぐろを巻いてる時は危ないんだ。隙がないように気を張りつめてて、敵が近づいてきたらすぐにシャーッて反応できるように」
「え」
「少し待ってるとどっか行くからむやみに刺激しないほうがいい」
蛇は体を硬くし、集中して神経を張り巡らせているようでした。
「あ、逃げた」
少しすると、蛇はとぐろを解いて、植え込みの下をくぐっていきました。
カップルは父親に会釈して、席を立ちました。
「君は本当に物知りだね」
旅人は子どもに言います。
「ああ、それはね」
子どもはニヤリと右の口角を上げました。
旅人もつられるようにフッと笑って、
「「お父さんが言ってた」」
「ぼくんちこっちだから。またね」
子どもは待っていた父親と手を繋いで、片方の手を旅人に大きく振ってくれました。
一度紫色に暗くなった空は赤味を帯び出していました。