一人旅だからこその出会いがある、だから旅にまた出たくなる
「一人旅って寂しくないの?」
こう聞かれたとき、私はたいてい「一人旅だからこその出会いもあるからね。寂しいと思ったことはないかな。」と答える。
そう答えるきっかけになった旅先、それが台湾。
私にとって、初めての海外一人旅だった。
航空券とゲストハウスは決めたものの、どこに行くかなんてまったく決めてなくてまさに行き当たりばったり。初めての一人旅のくせになんて無計画なんだ、そんな気がしなくもないけど当時の選択は結果的に大正解だったらしい。
10日間の滞在期間中、私は台南を訪れた。
私が台湾を訪ねたのは3月上旬。
とはいえ台湾はとっても暑い。なにか飲みたいなと思いながら、知らない道をただただ歩く。そこでたまたまドリンクスタンドを見つけ、なんとなく気になってしまい店内にはいった。
そのお店は蜂蜜を使用したドリンクが有名らしく、黒と黄色でデザインされた店内には蜂のイラストがいたるところに描かれていた。値段は相場よりちょっと高め。それでもなにか惹かれる部分があり、私は一杯のドリンクを購入した。
一口飲んで、買って正解だと思った。
先ほど買ったドリンクを手に、これからどこへ行こうかなと頭の中で考えながらまた台南の道を歩き始める。
交差点にさしかかり、信号が赤から青に変わるのを待っていた。後ろには消防局。お兄さんがこれから出勤するであろう消防車をオーライオーライってしているのを、これまたドリンクを片手に眺めていた。
するとそのお兄さんと目がばちっと合い、そのまま会釈。なんだか日本っぽいなと思っていたら、お兄さんの視線が私の手元に移る。視線の先にあるのは、ついさっき買ったばかりのドリンク。ちょっと怪しんだものの、気づくと私はそのお兄さんに話しかけていた。
您怎么了?(どうかしましたか?)
するとお兄さんの顔がぱあっと明るくなり、「それって近くのあの店のやつだよね?あのお店のドリンク好きなんだ。ちょっと高いけどね」と中国語で話してくれた。
そのまま会話は続き、「どこから来たの?」「日本から来たよ」「日本人だったんだ!中国語話せるのすごい、どこで勉強したの?」「大学で中国語勉強して、北京に留学もしてたよ」と消防局の前で立ち話。
するとお兄さんが「実はこの消防局は日本と関係が深いんだよ。よかったら中みていかない?普段は一般公開とかしてないんだけど、せっかくだし時間あるならさ!」と消防局内を案内してくれると言ってきた。
なんだこの流れと思いつつも、私はそのご好意に甘えて消防局の中を案内してもらった。
そこには展示室があって、日本統治時代の制服や鐘が置かれていた。
お兄さんはひとつひとつ紹介してくれて、次に私が言われた言葉は「塔を登ろう」だった。
塔を登るとは、そんな不思議さを胸に抱きながらなんだかんだで「うん」と返事をする私。手に持っていたドリンクはお兄さんにパスして、両手でハシゴを登っていく。3階分かな、ひたすらにハシゴを登っていきやっと頂上までたどり着いた。
そこからみた景色を私は今でも覚えている。
夕暮れのオレンジがかった空と太陽、そして台南の町。
初めてきた土地、横にいるのはさっき出会ったばかりの台湾人。何もかもが新鮮なはずなのに、なぜか安心感と懐かしさがそこに感じられた。
知らない土地でたまたま買った一杯のドリンクがこんな風に人と出会わせてくれるなんて。これが旅人がよく口にする一人旅の醍醐味なのかもしれないと、そのときなにかが自分の中で腑に落ちた。
また旅に出られる日がきたら
これは1年半ぐらい前の出来事。だけど今でも鮮明に覚えている。
コロナにより、国境を飛び越えるための扉はかたく閉まってしまった。以前のように気軽に旅に出られる日は、いつになったら戻ってくるのだろう。
でもその日がまた訪れたら、私はまた台南を訪れたい。行き当たりばったりの、どんな出会いがあるか分からない、そんな旅をしたい。
どこにあったか覚えてないあのドリンクスタンドの前を通るかもしれないし、もしかしたらまたあのお兄さんと会ってしまうかもしれない。
こんな出来事を通じて、私は一人旅の醍醐味を知ってしまった。
だから「一人旅って寂しくないの?」という問いに、私は自信を持って「一人旅だからこその出会いもあるからね。寂しいと思ったことはないかな。」と答えるんだ。