唯一使わない、お茶漬けの素

 私はあまり無駄なものを買い物しないタイプで、普段の食品や日用品の買い物もリストを作って行くし、月の食費も決めた範囲内に抑えようとするような保守派だと思う。ついでに結婚してからは食器棚や調味料・乾物入れも一掃したことによって、現状キッチンに置いてある物はほとんど把握しているし、使わないものはほとんどない状態だと思う。
 それから独身の頃からほぼ毎日がっつり料理しているので、料理をしない人のキッチンよりかは遥かに物が多いと思うし、パンやお菓子作りのものも合わせると、キッチンは、夫曰く『私ワールド』らしい。

 そんな中で、私自身も日々キッチンにいて、そのパッケージを見るたびに”浮いて”見えてしまうものがある。それが、乾物入れに入っている、そして私のnoteのアイコンでもある永谷園のお茶漬けの素である。

 これは、誰でもない自分が買ったものだ。スーパーで、もう半年ほど前に衝動的に買ったのだが、今ではまだそのうちの一袋しか使っていない。食い意地のある自分はいつも、一人きりのお昼でさえお茶漬けだけで済ますなんてことしないのだから、お茶漬けの素が活躍する場面はほとんどない。

 なのに、ある日不意に「あぁ、こういうの持っとくと楽だよね」と、隣にいる夫に言いながらスーパーでカゴに入れていたと思う。しかも八袋入りのパックが三つも入った特別パックを。どうして買ったのか、このパッケージの魅力はなんなんだろうか、と考えても心惹かれる理由ははっきりとはわからない。これがいわゆるノリで買っちゃったやつかな、と思っていた。

 最近、ダイエットを意識して夕食の時間を早めたことで、ちょうど食事中にテレビでやっている大相撲中継を見る流れになり、このパッケージの旗を持った人が土俵をつらつらと回る様子を見た。そのときに、自炊した夕飯を食べながら私は、一人きりの家で『お茶漬け食べてぇ〜』と口走っていた。やっぱり何度見ても、なんてそそられる見た目なのだろうかと思った。

 それでもやはりその翌日も食べることはなかったが、乾物入れを開けるたびに、おかしいなぁ、と考えているうち、何か懐かしい記憶を感じたので思い出してみることにした。
 昔お茶漬けを食べた記憶があるのは、大学生の頃バイト帰りの夜遅くに実家で出されたもの、あとは一人暮らししたての頃に母親に持たされた荷物の中に入っていた、一袋のお茶漬けの素を、「もうこれでいっか」と仕事帰りか飲み会帰りのときに食べていた…とんじゃないかと思う。記憶はあやふやだが、夜遅く、誰かに出してもらったお茶漬け、というキーワードは確かにあるようだった。

 今のキッチンで居続けているのは、そういうときの美味しさの記憶、ささやかな喜びか、と、少しだけ霧が晴れたような発見をした気になった。忙しくしている最中では場当たり的だった味も、今では味わおうと思っても味わえない、ノスタルジックなもの、そこに心のどこかで癒しを感じているのだろうか。

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