「子どもたちの幸せのために」 | 本業も複業も全力を注ぎながら、やりたいことに挑戦し続ける理由
保育士として日々子どもたちと接しながら、個人でも子どものために活動がしたいとYOKAROを立ち上げた吉川由さん。
お話を伺うと、自分の心の声に向き合っているからこそ、やりたいことを仕事にできた彼女の信念を感じることができました。
なぜ本業とは別で個人の活動に挑戦しようと思ったのか。一歩を踏み出すための大切なマインドに迫りました。
吉川由さん
他業種から保育士に挑戦したのは、本当にやりたいことだったから
──普段の保育士のお仕事では、どのようなことをされていますか?
今は都内の保育園で主任保育士をしています。先生たちが働きやすい環境づくりに携わっていて。
保育園は子ども何人に対して保育士が何人必要というのが決まっていますが、数が満たされていてもその通りうまくいかないことが多いんです。どこかのクラスに入って細々としたお手伝いをしたり、担任がほかの業務がある時にわたしが子どもたちと一緒にいたりなどのサポートをしています。シフトを作ったりもします。
──保育士の他に中学校・高校の免許を持っていると伺いました。吉川さんが教育者になろうと思ったきっかけはなんですか?
子どもの頃は小学校が大好きだったことがきっかけで、小学校の先生になりたいと思っていました。自分が楽しかったから、将来の子どもたちも同じように楽しく過ごしてほしくて。
中学校に進むと、今度は英語が楽しくなりました。そのため大学の進路は、保育学科と英語学科のどちらに進むかで悩みました。保育学科に進んだら保育士にしかなれない。でも英語学科に進めばいろんな幅が広がると思い、英語学科に進んで教員免許を取りました。
けれど卒業するときにはまた別のことがしたくなっちゃって(笑)。それで他業種に就職したんです。でも社会人になってからどうしても保育の仕事がやりたくなったので、まずは資格を取るための勉強も兼ねて非常勤として保育園に入りました。
──最初の一歩は、非常勤からやりたい仕事の世界に足を踏み入れたのですね!
でも資格のない非常勤なので、どうしても立場がお手伝いさんになるんですよね。だから主体的になにかをすることもないし、子どもたちと積極的にふれあうこともできない。それに自分がなにか失敗したときに、担任が頭を下げるんです。それがすごく嫌で、わたしも責任がある立場になりたかった。
担任になって子どもたちともっと楽しいことをやりたいと思い、保育士試験を受けて、晴れて念願の保育士になりました。
──昔なりたかった教育の仕事に、他業種からでも挑戦しようと決意して、行動したことがすばらしいです。
結局そこに帰ってくるというか、本当にやりたかったんでしょうね。
──今、保育士になって良かったと思いますか?
良かったです!試験は二度と受けたくないですけどね(笑)。
個人の活動は、子どもたちとやりたいことに挑戦できる癒しの場所
──異業種から本当にやりたかった保育士に挑戦して、夢を叶えた吉川さん。ここからは、個人で活動されているYOKAROについて教えてください。
YOKAROは主に、ものづくりワークショップをやっています。
子どもがメインで活動する場です。あとは英検対策の授業をしたり、NARIWAIという子どものためのお仕事メディアを運営するなどの活動を行っています。
──すべて子どもたちのために活動しているのですね。
まず始めに、YOKAROを立ち上げた経緯について興味があります。本業でも教育業界で子どもたちに携わっている上で、なぜ複業としてYOKAROの活動を始めようと思ったのですか?
保育士を経て、勤めていた保育園と同じ会社で民間学童を立ち上げないかとお誘いを受けたことがきっかけで所長になりました。所長の仕事は責任をもつことができて、毎日充実していました。
働いていた民間学童は自由にいろんな活動を取り入れることができる場所だったことと、自分が現場主義なこともあって、毎日プログラムを持って子どもたちとふれあうこともできました。所長でありながら子どもたちの担任みたいな存在だったんです。
でも会社の中での仕事なので、自分がどれだけ情熱を注いでやろうと思っても、やれることに限界がある。だから、もっと自由にやってみたいなと思ったのと、自分がやりたいことに挑戦したかったからですね。そこでYOKAROという活動を自分でやってみたらどうかな、もっと自由にできるんじゃないかなと思って始めました。
──保育士になるまでの挑戦も素敵ですが、そこからまた個人で立ち上げるという行動力や決断力もすばらしいなと思います。ちなみに、YOKAROという名前の由来はなんですか?
わたしの出身が佐賀なので、「いいでしょ、いいよね」と言うときに話す方言である「よかろう」からとりました。
──故郷の方言から命名されたのですね。今までのお話を伺っていて、一番に子どもたちのことを想って活動されているんだなということを感じます。
そこなんでしょうね。子どもが好きだということが原動力なのだと思います。
──YOKAROをやっていて良かったことはなんですか?
枠に囚われないでやってみたいことに挑戦できることかな。所長だったらこうでなければ、主任だったらこうやっていかなければってことが、どうしても役職柄あるんです。でもYOKAROは自分でやっているだけなので、これいいんじゃないかと思ったら挑戦できるし、幅広く活動できることはやって良かったなと思っています。
あと、本業しながら活動しているという面では、収入に対して不安がないことですね。そこはかなり大きいと思います。YOKAROで売り上げを上げないと生活ができないっていう状況だと、今のように素直に楽しめていないんじゃないかな。本業があるからこそ、YOKAROでの活動は癒しになっています。
──個人で自由に活動できることと、本業があるからこそ楽しめたり癒しになるというのは大きいですね。
そうですね。本業をしながら個人で活動することの良さにつながっていると思います。
──逆に大変なことはありますか?
わたしの場合は時間ですね。すべてに全力を注ぎたいタイプの人間なので、本業で9時間全力を注いだ後に、帰宅してYOKAROの活動に全力を注ぐとなると、アドレナリンがきれてしまったときの疲労がドッとくるんです。わたし以外にスケジュールなどを調整してくれる方がいるのでやっていけてますけど、一人だったらかなりきついです。
あとは、先ほど収入に不安はないと言いましたが、お金の面で大変なことはあります。固定の収入は本業で安定しているものの、やはりワークショップをやるとなると材料費や会場費もかかってきますし、子ども相手だと単価をどうしても低く設定することになるので、大きな収入にはならないですね。
赤字にこそならないけど、収入は微々たるものなので、お金にモチベーションをおかないようにしています。
──お金にモチベーションをおかない、というと?
収入があるからやっていけるとか、稼げるから続けられるっていうお金が目的だと続かないですね。そこよりも、子どもたちが喜んでくれるとか、楽しんでくれているというのがわたしのモチベーションです。お金は生きていくために必要だけど、副業に対しては重きはおかないようにしています。
子どもたちにいろんな生業があることを知ってほしい
──YOKAROの活動の中で、今年の6月に「NARIWAI」という子どものためのお仕事メディアサイトを立ち上げました。このメディアをやろうと思ったきっかけをお聞きしたいです。
NARIWAIの構想はけっこう前から考えていて。前職で所長をやっていたときに、子どもたちに口うるさいくらい可能性について話してきたんです。「あなたたちは何にでもなれるんだよ」、「今、宇宙飛行士になりたいって言ったって、なれるんだよ」って。
でも子どもたちは、「えぇ、なれるの?!なれないよ〜!」というような感じだったんです。そのときに、この子たちは自分の可能性についてまだ全然知らないんだなって感じました。けれど子どもが勝手に学べるわけではないので、ここは「いろんな世界があるんだよ」っていうことを伝えるのも、私たち大人のひとつの役割かなと思っていました。
大人になって分かったことですが、例えばコミュニティフリーランスのような、子どもの頃に聞いたことのないような職業についている方がたくさんいらっしゃいますよね。ほとんどの子どもたちは、看護師や先生、弁護士のようなわかりやすい職業に目がいきがちなんです。それだけではなくて、世の中には本当に幅広い仕事があるということを、どうやったら子どもたちに伝えられるのかなと思って。
そこでYOKAROでなにかできないかなと思い、じゃあやってみようと声をかけたら協力者が集まってくれたことがきっかけです。
──吉川さんの想いが周りに共鳴しているんだなと感じます。
不思議ですね。おそらくNARIWAIのようなものが今までなかったんでしょうね。
──わたしもサポートとしてお手伝いさせてもらっていますが、たしかにそうだなあと思います。子どもたちが取材班として大人に、職業のことや働くとお金の関係などを直接インタビューしていくんですよね。
所長の仕事をしているときに、「先生主体」ではなくて「子ども主体」での活動を多くとっていたんです。
どういうことかというと、子どもが自分たちでディスカッションをしたり、ディベートやプレゼンテーションをしていました。そこで子どもたちがつまずいたときに、ちょっとしたヘルプをするのがわたしの役割だと思ってレッスンをしていたんです。その経験から「じゃあ、子どもたちがすべてやってみたらいいんじゃないか」と思ったんですね。
ただ子どもが原稿を書いて直接やりとりをするにはあまりにも時間がかかるので、話した内容をまとめるのはわたしがやる、でも質問の内容を考えたり取材は子どもたちが主体的にするようにしようと思い、そのような形で進めていきました。
誰もやったことのないものをやれるというのは、とても嬉しいですね。
──今後、吉川さんが目指すものはなんでしょうか?
大きく言うとすると、「子どもたちの居場所を作りたい」です。
──居場所、ですか?
はい。心の”かいほう”ができる場所。この”かい”が「開ける」ほうの「開」なのか、「解き放つ」の「解」なのかは、その子によって違うと思うんですけど。親や親戚、学校の先生以外にも「あなたたちのことを大事に想う人がいるんだよ」というのを知ってほしいと思います。
本当はいろんな大人が見守っていて、支えてくれているというのを子どもたちは知らないと思うんですよね。やはり目の前にあるものが子どものすべてだと思うので。ちゃんと支えられて愛されて育っているんだよって分かったら、彼ら彼女らの心が満たされるかなって。だからすくすくと心も体も健康に育ってもらえるように、第3の居場所をつくれたらいいなと思います。
後から後悔するよりも、やりたいことに挑戦してほしい
──最後に、吉川さんのように信念を持って、悩みながらも一歩を踏み出したいと思っているミレニアル女性にメッセージをお願いします。
女性は男性よりも「リミット」が多い気がするんです。たとえば、出産をする人はどうしてもブランクができてしまう。何が自分にとって一番重きをおくところなのかにもよりますけど、「自分にはできない」とか「無理かもしれない」という考えはもったいないというより無駄だと思います。だってみんな後悔したくないと思うし、後から後悔したって何にもならないんです。
子どもたちにも言ってきたんですけど、「できないと言っている人は一生できない」。「"できるできない"じゃなくて、"やるかやらないか"だから、やりたいならやった方がいいし、やらないんだったらスッパリと諦めた方がいい」というのが持論です。たとえば、お金の面などで悩むことはあると思うけど、やりたいんだったら本当にやった方がいいと思います。
失敗してなんぼだと思うんです。初めてのことなら尚更そう。失敗して、間違って、その繰り返しでしか人間は成長できないと思うので。
できないことはない!自分が楽しいと思うことを挑戦してみた方が案外すっきりしますね。