あの日のこと②
私が所在なげに立っていると、彼が「ここに座ったらどうですか?」と人懐っこい笑顔で彼の隣の席の椅子を引いてくれた。
このニコニコ、大好き。
どうしていいのかわからなくて困っている私を気遣ってくれたようだ。
そう。彼は優しい。
でも私は戸惑った。
「え?でも、亜美さんはどこに座るのかな?」「適当に座ると思いますよ?」「でも、ここ…」「もういいじゃん、座りなよな。ほーら!」
彼に促され、隣に座る。
緊張と恥ずかしさを隠すように、私はどんどんお酒を飲んだ。
私は自分でも呆れるほど、素面だとコミュ障だ。
それは今でも変わらない。
アルコールを入れないとろくにおしゃべりもできない。どんどん飲んだ。
実は彼もシャイで酔わないと敬語が抜けない人だった。
全員よく飲んでいた。
みんなの世話をやいた後、亜美は私の隣の席に置いていた自分のスマホをさっと手に持つと、自分の男友達の隣に座った。私と亜美は対角線の位置になった。お互いがよく見える。
私たちを監視するには1番いい席だ。
私と彼が隣同士で無言でただお酒を飲んでいるのをチラチラ見ながら男友達と話している亜美。
「ねぇねぇ、みんなでおしゃべりしようよ〜」
亜美が話題をふる。
しかし、テーブルが大きかったことと店内のBGMが大きかったこともあり、対面している者同士の会話はあまり盛り上がらずに自然と皆隣同士でおしゃべりしていた。
私はあっという間に酔いが回った。
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