作家さんが「キャラを掴む」まで押したボタンを列挙してみる
お久しぶりです、StudioZOONのムラマツです。
イキナリなんですが先日こんなツイートをしました。
新入社員のこの簡潔なまとめには本当に感心したんですが、「いや、ストーリーも大事でしょ」等と色んな意見があり、今ひとつ伝わってなかったか、とも思っていました。
そんな中、昨日も打ち合わせで「キャラを描くとはどういうことか?」みたいな話になったりして、最近だいぶキャラについて考える機会が多かったので、一度そのことについてnoteを書いてみようと思います。
マンガ制作上の最難関イベント=「キャラを描く」
「キャラクター難しいっすね…」
「キャラってどう描けばいいんですか?」
新人作家さんからこういう悩みの言葉を聞いたことがないマンガ編集はいないんじゃないか、と思います。
デビュー前の作家さんの悩み第1位が「キャラをどう立てればいいかわからない」で第2位が「新連載ネームどう作っていいかわからない」だと勝手に思ってるんですが、とにかく「キャラを描く」というのはマンガにとって一番重要なクセに、答えがあるようなないような感じで、非常に難しい。
しかも厄介なことに「マンガの技術向上」と「キャラクターを描く」ってことは別物で、絵が上手くなる、コマ割りが上手くなる、構成が上手くなる…でもキャラが上手く描けないってことは全然ある。これはなかなかに苦しい状況ですが、実際にこの状態に陥る新人さんは多いです。
さて、こんなnoteを書くくらいなら「キャラを描く」ことについて何か答えを持っているのか?と言われるとまったく持ってません。また、仮に僕が答えを持っていたとしても作家さんが主観的にわからないと意味がないので、編集者である僕にできるのは、作家さんが主観的に「わかった!」という状態になるまであの手この手を尽くすことだけ。ネームを見せてもらって意見を言ったり、色んな作品について雑談してみたり、ただただ話を聞いてみたり、最近思っていることについて話し合ってみたり。本当にあらゆるボタンを闇雲に押し続けた結果、なんとなくの感覚が掴めてきてキャラがイキイキとし始める……そういうことがこれまで何度もありました。
どのボタンがよかったのか、複数のボタンが連鎖的に働いたのか、そんなものとは全く関係なく作家さんが勝手に何かを掴んだのか。実際のところはわかりませんが、今回は僕がこれまで押したボタンを思い出せる限り羅列していきたいと思います。打ち合わせと同様に闇雲でまとまりがないとは思いますが、とりあえずCheck it out!
「機能」と「肌触り」の話
キャラには「機能」と「肌触り」がある、という話をよくします。
例えば『SLAMDUNK』の桜木花道でいえば機能は「不良で、背が大きくて、ジャンプ力がすごくて、バスケ素人で、凶暴で、惚れっぽいのにモテなくて、髪が赤い」になります。キャラ表で表現できる特性のようなものです。
一方、肌触りはというと「歩く時ちょっとガニ股、眉根に力が入っている、顎が上がり気味で斜め上を見ている、怪訝に思った時『ぬ』と言う、はーっはっはっと笑う」などです。実際の場面でしか表現できない人となりのようなものです。
「キャラが苦手だ」という新人さんは「機能はあるけど肌触りがない」「肌触りがあるけど機能がない」のどちらかで、そのどちらかによって押すボタンを変えています。
肌触りがあるけど機能がない人
「キャラクターは頭の中で動かせるし、一人一人どんな人間かはわかっているんだけど、ネームを見せると担当に『キャラが弱い』とか言われるんだよな〜。うーん…キャラ苦手だ。」
こういう人は本質的にキャラは描けています。
「キャラが描けている」というのはどういう状態か。僕は「そのキャラ固有のリアクションが想像できる」ということだと思います。もっと平たく言うと「自分の親友のようにキャラを理解している」ということかな、と。
例えば、友達2人がただただコタツに入っている場面を想像する。そうすると、Aが先にこう言うかな〜、そしたらBはこう返すかな〜、というやりとり=リアクションの応酬を作家さんじゃなくても、なんとなく想像つく人も多いと思います。これをフィクションのキャラ同士でできる人が、キャラが描ける作家なんだと思います。
では「キャラは描けているけどキャラが苦手」というのはどういう状態か。これは単純に商業連載をグイグイ引っ張ってくれるようなパワフルなキャラや関係性にまだ出会えていない状態だと思います。
この状態の人に必要なのはアイデアです。とにかく、たくさんの企画を出してもらいます。そして打ち合わせで「この作品のこいつはこうだった」「あの作品のあいつはああだった」等と色んな作品の雑談をしたりします。そうしているうちに「このサブキャラはいいね」とか「この敵キャラの関係性はドキドキする」みたいに、主人公でないにしても魅力をもったキャラたちが現れてきてストックができてきます。そしてある日「あれ、Aの企画の敵キャラとBの企画のサブキャラをコンビにして、Cの世界観でやったら面白いんじゃ…」みたいなことがあったりして、結果的に連載企画ができたりします。
連載企画のことを「設定・世界観・キャラの機能が上手く噛み合って勝手に面白いストーリーが紡がれていくアイデア」と定義するならば、このタイプの人は実はキャラではなく企画につまづいている人とも言えると思います。
機能はあるけど肌触りがない人
こっちのタイプの人はまだ本質的にキャラの描き方を掴めていない、と考えています。設定やストーリーが先行しがちで、キャラのリアクションが一通りになりがちなタイプです。
ちょっとわかりづらいと思うので例を出します。
「ある日突然 強大な超能力に目覚めて、世界を統べようとする魔王と戦うことが運命づけられた主人公」
がいたとしましょう。
これはキャラでしょうか?
僕はこれはキャラではなく設定だと思っています。なぜなら、これと同じ設定に置かれた場合、僕と、僕の母親と、アヴリル・ラヴィーンでは全く違うリアクションをして全く違う物語を紡ぐからです。僕はまず会社に有給とる連絡を入れて自室で1人で頭抱えそうだし、母親は親戚とかに電話で相談しそうです。アヴリル・ラヴィーンはちょっと想像できませんが、僕や僕の母親がこの状況に陥った時と全く違うリアクションをして、結果的に全く違う物語を紡いでいくことは明白です。
機能はあるけど肌触りがない人は、上記の例のような設定・ストーリー・キャラ表=アイデアはしっかり作り上げますが、物語がキャラのリアクションの応酬によって紡がれていくのだ、という感覚をまだ掴めていません。
この状態の人にはキャラのリアクションを沢山描いてもらうことでその感覚を掴んでもらうようにしています。キャラ表にある「ある日突然 強大な超能力に目覚めた主人公」はどんなやつなのか?朝起きてまず何をやるのか、捨て猫を見たらどんなリアクションするのか、満員電車で座ってる時に目の前にご老人が立っていたらどう思いどういう行動をするのか。そんなスケッチのようなものを思いつく限り描いてもらいます。
そして、描いてきたものについて話し合います。「こういうリアクションするってことはこういうヤツなのかな?…ってことは、こんな過去があるのかな?となると、こっちの猫背っぽい立ち姿のほうがしっくりきますね」みたいに。そうやって積み上げていくうちに、代替不可能な人間性を帯びてきますし、うまくいけば「ああ、キャラってこういう風に動かすのか。今までストーリーから考えていたな〜」という感覚にたどりつきます。
冒頭のTweetについて
この辺りで冒頭のツイートに話が繋がってきます。ストーリーとはキャラのリアクションの応酬である…もう少し詳しく言うとキャラのリアクションの応酬によって生じた感情・関係性・状況の変化のプロセスであって、キャラと分離して独立で存在できるものではありません。なので「起承転結を意識してどんでん返しの展開も入れたストーリーができました。キャラはこれから考えます」というアプローチは原理的にありえない。ストーリーを先に考えていたとしても、固有のリアクションをするキャラを放り込んだら、必ずそのストーリーも変わっていくはずです。
もしストーリーが変わらないのだとしたらそれは、どのキャラでもいい=代替可能なキャラである=生きたキャラではない、ということになる。そうなると生きてないキャラが予め決められた通過地点を通るだけのただの段取りになってしまう。「面白くない漫画はストーリーを描いている」とは、この状態のことを言っているのでした。
実際に、連載マンガを担当している時に「がんばってストーリーを考えている」感覚になる時はあまりいい状況でなく、「この時このキャラは何を考えていて、何が起こるとよりイキイキと動き、魅力的になるのか?」を考えている時はいい状況だな、と感じます。前者はキャラがまだ代替不可能な人間性を帯びていない=キャラを掴んでいない状態であると考えられるので、いったんは「急がば回れ」でキャラの話をじっくりする。そこで「ああ、こいつはこういうやつだったのか!」とキャラを掴んでからネーム作りに戻ると、結果的に全然違うストーリーになったりします。
作者がコントロールできること
ここまで読んで「キャラがリアクションの応酬を続けていくのに任せるだけでは、まとまったストーリーにならないのではないか?」という疑問が出てくる方もいるのでは、と思います。確かに作者といえど、キャラを自分の思うままにストーリーに都合よく動かすことは出来ないですしやってはダメなんですが、出来事や出会いや見せ方をコントロールすることはできます。
どういう出来事や出会いがあればキャラたちがイキイキと動くのか?物語や関係性がより発展するのか?そこにどんなテーマを見出せて、どのように切り取ると輪郭がハッキリするのか?作者は物語の創造主としてこの部分をコントロールしていくことで面白い物語を紡いでいくことができます。
他にもたくさんありますが…
思ったより長くなったのでとりあえずここまでにしておきます。ボタンを羅列するとか言っておいて2〜3くらいしか書けませんでしたが、まだ10個くらいは書けると思うので、時間ある時にまた続きを書きます。
というわけで、StudioZOONではキャラクターを大事にしたWebtoonを作っていきたいと考えておりますので、ご興味ある漫画家、アートディレクター、編集者のみなさまは以下よりご連絡ください〜!
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ではでは、よろしくお願いします。