作品のテーマってなんだ?
どうもこんにちは、Studio ZOONのムラマツです。
最近はMondできた質問に答える形式でnoteを書いているのですが、今回はこんな質問をいただきました。
これはですね……本当におっしゃる通り!!! マンガ編集の現場でも人によって「テーマ」と呼んでるものが全然違ったりします。なので(例えば持ち込みなどの場面で)しっかりコミュニケーションもせず原稿だけ読んで「この作品のテーマはなんですか?」なんて迂闊に質問しようものなら、作家さんと編集者2人して30分ほど冥府魔道を彷徨うことになります。
実際、僕も「テーマ」という概念が一番理解に時間がかかりました。今もはっきり言語化できているわけではないですが、作家さんとテーマについての話し合いも以前よりできるようになってきたように思います。なので、今回は自分なりの理解でテーマについてつらつら書くことで、冥府魔道に立ち入る人を一人でも減らせることができればと思います。それではCheck it out!
テーマの持つ機能
この記事では作品のテーマというものをズバッと定義し、その掴み方もつまびらかにすることを目指しますが、まずは具体的なテーマをいくつか列挙することから始めましょう。
これらは自分が担当していて「こういうテーマで打ち合わせしていたな〜」というものと、記事などで作者さん自身が明言されていた作品のテーマになります。こうやって見渡してもスローガンやキャッチコピーのようなものから、作者さんの人生観のようなものなど様々な次元があります。質問者さんのおっしゃる通り、人によってテーマという言葉は違う意味で使われていて、そのために理解することが困難な面があります。
さて、そもそもの話ですが、作品づくりをする際に、なぜテーマを確認したくなるのでしょうか?上記の例で、持ち込みを受けた編集者が原稿を読んで「この作品のテーマはなんですか?」と聞いた時、一体どういう状況で、何をしたいと考えているのでしょうか?
これは編集者の立場から体験的に語れるのですが、作品の印象がぼんやりしていてスッキリさせたいと考えているのだと思います。何か余計なものや、足りないものがあって、スッと作品の面白さや感動が受け取れないでいる。これをスッキリさせたい。そのためにこの作品のテーマを作家さんから聞いて、「あーなるほど、そういう狙いだったんですね!じゃあ、このコマがあるとわかりづらいですし、こういうシーンや感情の描写が必要になりますね!」ということを言いたい。
参照:https://note.com/mi_muramatsu/n/n6075167774df
このことから見えてくるのは、テーマというものが「やるべきことと、やらないでいいことを峻別する機能」を持つということです。
ちょっとわかりづらいかもしれないので例を出します。上記で『ジュラシックパーク』の続編映画『ロストワールド』のテーマが「Eat the rich!(金持ちを喰らえ!)」だと書きました。これは僕が高校生の時に、恐竜の模型に囲まれたスピルバーグが満面の笑みで「次の映画のテーマは『Eat the rich!』さ!」と言っているのを映画雑誌で見て「なんじゃそのテーマ!?」と思ったので強烈に記憶しているのですが、このテーマがある場合とない場合を想像してみましょう。
ストーリーは前作同様に科学技術で現代に甦った恐竜から主人公たちが逃げ惑う話なわけですが、よく考えるとこの状況と題材で色んなことが描けることに気が付きます。例えば「意図せず違う時代に甦ることとなった恐竜の悲哀」「暴走する科学技術の恐ろしさ」「死の恐怖を前にした人々の醜い争い」などなど。別にどれも描いて間違いはなさそうです。描いた方が良い気すらしてきます。が、ここでふとスピルバーグは立ち止まります。「いや、待て待て。この映画のテーマは『Eat the rich!』やろ?そんな辛気臭いもん描いてもしゃーないやんか。調子に乗った金持ちと軍人を景気よく恐竜がバクバク食えばええんや!」と。
マンガ連載もこんな感じで、作家さんと編集が作品のテーマをしっかり握れていると、キャラクター像からストーリー展開まで無数に浮かんでくる選択肢が大幅に減ります。逆にテーマを掴んでいないと、無駄なことをやったり、やらなくてはいけないことをスルーしてしまう。テーマは作品が向かうべき道を照らしてくれる羅針盤のようです。なので、その定義も「作品の羅針盤」としておきます。その羅針盤がスローガンやキャッチコピーのような言葉だったり、作品の面白さの構造を言い表したものだったり、作家さんの人生観だったり、いろんな表現をとりうるということですね。羅針盤として機能しやすくさえあれば、どんな形でもいい。
となると、次の問題はどうやったら「これが作品の羅針盤だ!」と言えるような言葉に出会うことができるのか?ということになります。
テーマの掴み方と企画の立て方
前述の通り、「この作品のテーマは何ですか?」と正面切って質問しても、どこか掴みどころがなく霧散してしまったり、「ホンマにそう思ってる?」と言いたくなるような固くて白々しいお題目を掲げてしまったりしがちです。そして、これまた体験的に言えるのですが「描きたいことは何ですか?」と聞いても、スッとテーマに辿り着くことはあまりありません。
これは共に「余計なものが入ってきやすい問いだから」だと思っています。「テーマ」という固い言葉に引っ張られて、無意識に他人の目線を意識したよそ行きの回答を用意してしまったり、「(前作はギャグで評価されたけど、それだけじゃない作家だということを見せたいので今回は)ファンタジーを描きたいです」といった具合に余計な欲が入ってきてしまったり。
逆に言うと、これら余計なものが入っていない状態を目指せば、作品や自分のテーマに迫れるはずです。では、余計なものを取り除き切った時に残るものとは何でしょうか?
僕は「身体が無意識にしてしまう反応や執着」だと思います。
例えば投稿作品を読む時、僕は1回目はかなりサラッと読むようにしています。そうすると「ん?」と気になる箇所があります。2回目はじっくりとストーリーを追いながら読みます。すると1回目で気になった箇所になんらかの「過剰さ」が発揮されていることに気が付きます。
・めっちゃこのシーンだけ描写濃いな
・ここの表情を描くんだ。普通描かないな
・いやらしい人を描く時の表情の生々しさすごいな
・めっちゃお尻中心の構図で描いてるな
・男の横顔をめっちゃエロく描くな
・ここのツッコミの切れすごいな、本当にそう思ってるんだろうな
・前の作品でも似た関係性を描いていたな
などなど。
それは作家さんが「ノって描いた痕跡」です。「ノって描く」というと楽しいことのようにも感じますが、時にはどうしようもなくかき乱されてしまうようなこと、描かざるを得ないから吐き出しているようなこともあります。ただ、楽しいことであれ、苦しいことであれ、その時の描写は過剰になります。身体が無意識に反応し執着してしまっていて、サラッと読んでも引っかかるくらい、エネルギーがあります。
・このエネルギーを作品にみなぎらせたい
・それ以外のことは最小限にしたい
・それらを分別してくれる作品の羅針盤=テーマを見つけたい
・そのテーマが活きる世界観やキャラクターを持ち、他人が喜ぶようにデザインされた「企画」にたどり着きたい
連載企画を固めるまでの打ち合わせで、僕は大体こんなことを考えています。そして、作家さんと自分が反応し執着してしまうクロスポイントを打ち合わせで探っていった結果……
・搾取を受ける生き物を見ていると色々と連想して目が離せなくなっちゃいますよね〜
・会社で困っているおじさんを見るとなんか笑えますよね〜
・素朴なことで喜んでいるおじさんを見るとほっこりしますよね〜
・午後ローで知らない面白アクション映画を見ると興奮しますよね〜
みたいな話になって、テーマやそれが活きる企画にたどり着きます。
自覚するか、気づかされるか
以上のように、自分の執着や反応するポイントを知ることがテーマの発見につながる訳ですが、執着や反応は「無意識にしちゃってる」ものなので最初から自覚していてる人はあまりいません。
商業連載を目指す過程で、賞やSNSに投稿したり、編集者と打ち合わせを重ねながら連載を目指す期間がありますが、この期間は単に技術を磨くというだけでなく自分や作品のテーマを発見していく期間でもあります。その過程で編集者に質問されたり指摘されたりして気づいていくこともあれば、多くの作品を描いているうちに自分で自覚していくこともあると思います。
なので、たくさん作品を描いて、担当編集者に都度見てもらいながら喧々諤々と話し合うのが、シンプルですが一番いいテーマの発見方法かなと思いました!
はい、こんな感じでいかがですかね?
「テーマって何?」というのは抽象度高くて難しいお題でしたが、こういう質問をいただくことでいい頭の整理の機会になるので、大変ありがたいです。というわけで引き続き質問募集しております、よろしくお願いします。
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