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遠く、楽園

ちいさいころに読んだ本の中に、飛ぶ教室という本がある。
角川つばさ文庫版の。

海外の作品を邦訳した子供向けの本で、私は迷いなくブックサンタに選ぶほどこの本が好きなわけだが、その理由の中にはきっと
私に知らない世界を教えてくれた初めての本だから
というのが含まれている。

まあ読書というのは大概それが醍醐味で、どれを読んだってそうだろうというのはそうなんだけど。

ただ子供のころ、つばさ文庫だとか、青い鳥文庫で本を買っていると、大体は日本で書かれた日本の物語だった。
勿論それも悪くない。身近に感じるからこそのワクワクというものがある。
子どもの頃ならなおさら。

でも「海外の物語、外国人の著者」には、質の違う感動がまたあった。
特に心に残っているのは、本編よりあとがきだ。
要約してしまえば「冬の話だから寒い所で書いたよ~」という、ただそれだけの話なのだけれど。

小さな子供の好奇心をくすぐるには十分すぎる程の描写で語られる、
果てしない草原、いくつかの山羊、遠くそびえる雪山、日差し、木製の机と椅子、鉛筆。

丸い地球の海をゆき、国を跨いで、遠く遠く、その先にある世界は、
ちいさなちいさな、家族と同級生だけで構成された些細な世界で、
何処にだって行けやしない小さな足をしていた私にとって、
いっそ楽園のように思えた。

イーハトーヴ、アトランティス、イスカンダル、だれもが夢見たその場所が、私にとってはそうだった。

それがわたしに何かを与えたかと言われたら、わからない。
ただずっと、冬の冷たい風が好きし、雪景色への淡いあこがれだけがずっとあるし、
私の深層心理から「楽園」を描いたら、きっとあの日、あのあとがきを読みながら想像したあの世界になる。

遠く遠く、きっと目指すこともない、あの日の楽園。
ちいさく心に秘めたまま、わたしはずっと幼い自分を見つめている。
すべてをまるごと抱きしめて、何も無駄ではなかったと伝えらられる日を、探している。楽園を探すように。

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