[カレリア民話] おじいさんとおばあさんのお話(UKON TA AKAN STARINA)
おじいさんとおばあさんのお話
彼ら(おじいさんとおばあさん)には、息子が1人いました。その息子は言うことも聞かず、働くこともせず、何もしようとしませんでした。彼らは話し合いました。
―この息子をどうすればよいんだ、何になるよう学ばせたらよいんだ?
―行商人になるように学ばせましょう。
おじいさんとおばあさんは言いました。
―けど、ちゃんと学んでくれるかねぇ。
彼らは、売り物として雌牛と犬を息子に与えると、村へと送り出しました。
雌牛は30ルーブル、犬は3ルーブルと値段がつけられました。そうして息子は出発すると、ある家にやって来て言いました。
―雌牛か犬かを、買わないかい?
しかし息子は価格を間違え、雌牛を3ルーブルだと言ったので、雌牛はすぐさま売れました。それから息子は1日中犬を30ルーブルで売ろうとしましたが上手くいかず、家に連れ帰りました。おじいさんとおばあさんは、雌牛を3ルーブルで売ったことに怒りました。おじいさんは雌牛を求めて(返してもらおうと)、息子が売った家へ出かけました。その家に到着すると、中に入って言いました。
―やあ、天国からこんにちは。
ーお前さん、いつそんなとこ(天国)へ行ってきたんだい?
おかみさんは尋ねました。
―なに、わしは毎日通っているんだよ。
おじいさんは言いました。
―じゃあ、そこで私の子どもたちを見なかったかい?幼くして亡くなった私の4人の子どもたちがそこに、天国にいるんだよ。
―ああ見たよ、毎日会っているさ。
―あの子らはそこで、どうしているんだい?そこでちゃんと食べているかね?
おかみさんは言いました。
―幸せに暮らしているし、食べ物もあるよ。ただ、牛乳が欲しいみたいだね。
おかみさんは言いました。
―お前さん、牛乳を届けてあげてくれないかね?
―それは無理だ、道中は曲がりくねっているから牛乳が傷んでしまうよ。ただ雌牛をくれるっていうなら届けようじゃないか。もし今日雌牛がいるのならね。
―あげないだなんて。ちょうど昨日、雌牛を1匹買ったんだよ。もう1匹は自分のところに残しておくけどね。
おじいさんは言いました。
―今日雌牛がいるってなら、もちろん届けてこようじゃないか。
そうしておかみさんが雌牛を与えると、家の主人がいないうちに去ってしまおうと、おじいさんは急いで牛を引っ張っていきました。
それからおじいさんが雌牛を連れ進んでいると、別のじいさんが後からついてくるのが見えました。それは、(息子から)雌牛を買った主人でした。おじいさんは雌牛を森に引っ張っていき、自身は道のそばにある大きな岩の上に立ちました。後からついてきたじいさんがやって来て、言いました。
―ここらで雌牛を連れたやつを見なかったか?
―見たよ、この岩のところまで牛を引っ張ってきて、天へとあがっていったよ。雌牛のしっぽだけがくるくるまわっていたな。
そうして雌牛を買ったじいさんは、(男が)天に行ったことをおかみさんに伝えに家へと帰っていきました。
おじいさんは森から雌牛をとってくると、家へ帰り、家畜小屋へ連れていきました。おじいさんとおばあさんは(ピンチから逃れ何とか)元のように暮らせることになりましたが、息子が商人になることはありませんでしたとさ。
単語
keškuššella [動] 話す, 会話する
tottuo [動] 慣れる, 教える
erehtyö [動] 間違える
kaupita [動] 売る, 商う
pahaštuo [動] 怒る
taivaš [名] 空, 天, 天国
mutkikas [形] 曲がりくねった
pilautuo [動] ダメになる, 傷む, 悪くなる
punoutuo [動] 回転する, くるくる回る
出典
所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のウフトゥア村
採取年:1959年
AT 1540
(悪)賢い男が純粋(愚か)な妻をだます笑話・小逸話の部類におさめられています。
日本語出版物
フィン・カレリアの民話としては見当たりません。類似話は西ヨーロッパの民話などに見られるようです。
つぶやき
民話(特に魔法物語)だと、のらくら息子は実は賢く、幸せを手にする・・・ことも多いのですが、この息子はただののらくらですね。
「カレリアは働き者には母であり, 怠け者には継母である」ということわざを以前紹介し、カレリア人は働き者だと豪語しましたが、そんなこともないのかしら。どうもこの両親たちは、息子に甘いようです。