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[カレリア民話] おじいさん、おばあさんと、ヤギとヒツジ(UKKO, AKKA, KOZA DA BOKKO)

おじいさん、おばあさんと、ヤギとヒツジ

 あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。彼らの財産といえば1匹のヤギと1匹のヒツジだけでした。おじいさんとおばあさんは、ヤギとヒツジをとても大切に飼っていましたが、ヤギとヒツジは退屈になってしまいました。彼らは立ち去ることを決め、白樺の樹皮で編んだ袋にお弁当を準備しはじめました。ヤギが言いました。
– 袋に食料を集めよう、ここは退屈だ。

 そしておじいさんとおばあさんが出かけると、袋いっぱいに食料を集めました。彼らは袋を背中にしょって、旅に出ました。進むに進むと、暗くなってきました。ヤギが言いました。
– ほら見て、灯りが見えないかい?

 ヒツジは(周囲を)見ると、村のようなところがあるのを見つけました。彼らは火が燃えているのを見ると、火元へ走っていきました。ところが、(近づいてみると)そこでは9匹のオオカミが夕食を作っていました。はじめヤギとヒツジは気づかなかったのです。彼らは驚きました。さて、ヤギは尋ねました。
– ぼくたちは夕飯に何を作ろうか?
– ほら、袋の中から大きなオオカミの頭を取り出して、それを煮ようよ、ヒツジは離れたところから言いました。

 オオカミたちはこの妙なやつらを見ると、おびえ始めました。誰かがどこかへ逃げるべきだと言うと、次々に森へ逃げていきました。そこには既に煮上がった夕食が残されました。ヒツジとヤギは(それを)食べました。袋を運んでいたヒツジは疲れを感じていました。ヒツジは食べ終わると、言いました。
– もう寝ようよ。
– ダメだ、ヤツらが戻ってくるかもしれないじゃないか、ヤギは言いました。

 いっぽうオオカミたちは、舌を突き出し、口を開けたまま、走りに走って逃げました。彼らのところへクマがやって来て言いました。
– そんなに息を切らせて、いったいどこへ行くんだい?
– それがさ、ヤギとヒツジがやって来て、大きなオオカミの頭を袋から取り出し始めたんだ。だからぼくらの母さんか父さんが殺されたんだと思って、逃げてきたんだよ。
– 逆に君たちがヤツらを煮てやればいいのさ、一緒に行こう、クマは言いました。

 そうして9匹のオオカミとクマの(あわせて)10匹は、調理場へと走って行きました。大地が激しく音をたてながら走っていきました。いっぽう音を聞いたヤギとヒツジは行き場を失いました。ヤギはヒツジに言いました。
– 兄弟よ、木に登るんだ、ヤツらはぼくたちを食べてしまうだろう。

 ヒツジは袋をもって登りはじめましたが、まだ疲れていたので、木の中ほどで足をすべらせました。しかし、よろめいたときに、どうしたわけか角が枝に引っかかり、宙づりの状態になりました。ヤギはというと、梢まで上がっていきました。そこへオオカミたちとクマがやって来て、話しました。
– ヤツら、木に登ったんじゃないか。
– 見て来ないとな、クマが言いました。

 そして木の根元へやって来ました。ヒツジは彼らが下で何をしているのか、見たくて仕方ありませんでした。けれども、どうしても頭の向きを変えることができません。さて、ヒツジはどうにかして向きを変えようとしたのでしょう、角が抜け、落ちてしまいました。ヒツジは袋と一緒に、ドスンと音を立ててクマの背中に乗っかりました。ヤギはこれを見ると、ヒツジを奮い立たせるために梢から叫びました。
– クマを捕らえるんだ、他のヤツらも俺たちのものだ!

 クマは驚いていたところにこの言葉を聞き、追い立てられるように逃げていきました。オオカミたちはクマが逃げていくのを見ると、彼らも逃げ始めました。ヤギは木から這いおりてくると言いました。
– 哀れなヒツジくん、今やぼくら、家に帰った方が良さそうだね。この世界をさまようなんて、面白くないよ。

 そうして彼らは家へ戻り、その後は二度とおじいさんとおばあさんのところから逃げることはありませんでした。

単語

elo [名] 財産
koza [名] ヤギ, 雌ヤギ
bokko [名] ヒツジ, 雄ヒツジ
pityä [動] 保持する, ある状態に置いておく, (家畜などを)飼っている
igävä [形] 退屈している, つまらない
varuštua [動] (前もって)準備をしておく
eväš [名] 食料
kesseli [名] 白樺の樹皮で編んだ小さな袋, 入れ物
tuli [名] 火, 灯り
višših [副] おそらく, ~かもしれない
palua [動] 燃える, (灯りが)ともっている
pöläššyttyä [動] 驚かす, 不安を起こさせる
loitoš [副] 遠く, 遠くに
varata [動] 驚く, 恐れる, こわがる
kunneki [副] あちらこちらへ, どこかへ
jälkeh [副] すぐ後を追って, ~に続いて
toini toisen jälkeh 次々に, 続々と
moušot [副] 恐らく, かもしれない
jälelläh [副] 後ろへ, もとの所へ
kero [名] のど, 口
kahallah [副] 開いた状態で, むき出しのまま
huahittua [動] 息切れする, あえぐ
hätäytyö [動] 窮乏する, 困り果てる, 途方に暮れる
vualiutuo [動] 苦労して行く, 入る
luiskahtua [動] すべり落ちる, 抜け落ちる
mitein [副] どうしても, どういうわけか
heilahtua [動] ゆり動かす, ふらふらする, よろめく
šarvi [名] 角
riputtua [動] つるす, ぶらさげる
latva [名] 頂上, 上部
karjeutuo [動] 叫び出す, 大声で言う
rohkautuo [動] 思い切ってやる, 大胆になる
pityä kiini 捕らえる, つかまえる
työntyä [動] 追い立てる, 立ち退かせる
šolahtua [動] 這いおりる
parka [名] かわいそうな人
kulku [名] 動きまわること, 運行すること
huvittua [動] 楽しませる
enämpi [副] より多く, その上
ei enämpi konša 二度と、これ以上
puata [動] 逃げ去る, 逃げる

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:ベロモルスキー地区のヴオタスオ
採取年:1937年
AA126A

カレリア語での他のバリエーションは見つかっていないようです。ロシア語版や、かなり似たフィンランド語版はいくつかあります。

ロシア語のタイトルは「臆病なオオカミたち(НАПУГАННЫЕ ВОЛКИ)」となっています。

日本語出版物

カレリア民話としてはありませんが、もしかしたらロシア民話として紹介されているかもしれません。

つぶやき

ヴィエナ・カレリアの中でも個性的な方言で、子音が有声化している語が多く、語彙確認に時間を要しました。ロシア語からの借用語もけっこう見受けられました。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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