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[カレリア民話] 小鳥(LINTUNI)

小鳥

 むかし、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは薪を求めていつも森へ行っていました。そうすることによって、暮らしていたのです。あるとき森で、(おじいさんは)木に美しい小鳥がいるのを見つけました。おじいさんは「これでばあさんにスープを食べさせてやれるぞ、この鳥を殺してしまおう」と考えました。すると小鳥が話し始め、言いました。
―私を殺さないで、家に連れて帰ってくださいな、たくさん良いことを行いますから。

 おじいさんは小鳥を家に連れ帰ると、おばあさんのところへ行って言いました。
―ここにほら、ばあさん、鳥だよ、捕まえてきたんだ。
おばあさんはとても喜び、小鳥を鳥かごに入れました。毎日おじいさんは仕事に行き、おばあさんは教会へ出かけます。(彼らが出かけると、小鳥は)言いました。
―お隣さん、お隣さん、私のまだら模様の牛の世話をしてちょうだい、私にお昼ご飯を用意してちょうだい。
おばあさんが教会から、おじいさんが仕事から戻ると、そこには昼食が用意されており、牛の乳しぼりも終わっていました。彼らは、誰がそれらを行ったのか分かりませんでした。

 皇帝の息子は「お前は鳥を妻にめとることになる」という魔法がかけられていました。皇子は、おじいさんとおばあさんが飼っている小鳥がどのようなものか、見る必要があると考えました。(おじいさんとおばあさんの家に)やって来ると、地下の貯蔵庫で粉を挽いているのが聞こえましたが、ドアは鍵がかかっていて、どこからも入ることができません。彼は暖炉の煙突から下りることにしました。そうして、そこから小屋の中に入りました。地下の貯蔵庫で粉を挽いているのが聞こえます。見に行くと、その貯蔵庫にはとても美しい娘がいて、ライ麦を挽いています。地下全体が光り輝くほど、美しい娘です。皇子が娘の近くに行こうとすると、娘は虫やあらゆるものに姿を変えました。皇子は剣で切り始め(言いました)。
―戻れ、鎮まれ、我が妻になっておくれ!
鎮まり、戻り、彼女は金色に輝くような美しい娘になりました。これでもう、彼女は二度と小鳥になることはありません。娘は小鳥になる呪いがかけられていました。皇子は煙突から去っていき、娘はその場に残りました。

 おじいさんとおばあさんが、仕事から、教会から戻ってきました。彼らは何が起こったのかは分からないにしても、料理が準備され、すべての仕事が終えられ、その上娘までいることに喜びました。しかし、皇子が花婿として来るようになったので、彼らには(娘と一緒に過ごす)十分な時間がありませんでした。おじいさんとおばあさんは、彼らが年をとったとき娘が養い手になってくれるだろうからと、(娘を)渡したくなくて激しく泣きました。皇子は彼らに言いました。
―私がお前たちを養ってやろう、だが娘は連れて行く。お前たちは何も助けにならなかったが、私は彼女を救ったのだから。

 そうして皇子は娘の手を取り、婚礼の儀をあげると、花嫁として皇居に連れて行きました。花嫁はまるで口がきけないかのように、一切話そうとせず、一言も発しないようになりました。皇子は、娘が何も話さないので嫌な気持ちになりました。皇子はある老婆のところへ行くと、言いました。
―私の妻が一切話そうとしないのだが、いったい何ができるかね?彼女は魅力的だし、美しい、けれども何も話さないのだ。
すると知恵者である老婆は、皇子に言いました。
―お前さんの嫁は妊娠しているよ。子どもが生まれたら、お前さんはその子を取り上げて、彼女の膝の上で殺すんだ、そうしたら彼女は話すようになるさ。
皇子は言いました。
―そんなむごいことはできない、子どもが気の毒じゃないか。
老婆は言いました。
―お前さんたちには、別の子が生まれてくるよ。

 妻が息子を産むと、その子はとても愛らしかったけれども、皇子はその息子を切り殺してしまいました。妻は泣き始め、口から鼻から血を流し、激しく泣き出しました。(しかし)それでも妻は話始めることはありませんでした。さて、皇子はふたたびあの老婆のもとへ行き、言いました。
―どうすればよいのだ、妻は話し始めないぞ、私は自分の子を殺めすらしたのに、話さないのだ。
老婆は言いました。
―お前さんはもう1人、妻を連れてくるんだ、そうしたら間違いなく話すようになるさ。もう1人の妻を連れてきたらサウナを暖めて、より綺麗に(身を)洗い清めた方を妻とするんだね。

 皇子はたまたまシュオヤタルを妻として連れてきました(シュオヤタルとは人食いで、残酷な人のこと)。婚礼では、花婿の親戚がテーブルにつきました。元の花嫁は暖炉からお茶用のミルク鍋をとると、エプロンの前掛けでテーブルに運びます。新しい花嫁は言いました。
―冷めきった鍋が、スカートの裾で運ばれてるよ!
元の花嫁は言いました。
―あら妹さん、私はおじいさんにも耐え、おばあさんにも耐え、固い鉄のフックにも耐え、それから穢れなき私のオコジョ(息子)が膝の上で切りつけられても耐えてきたけれど、みだらな女が私の戴冠儀礼に連れてこられるのには我慢ができないわ。

 元の妻も、新しい妻も、どちらも話をし始めました。皇子は彼女たちに向かって言いました。
―サウナを暖めるんだ。より美しく(身を)洗い清めた方が、我が妻として残そうじゃないか。
さて、妻たちはサウナへ向かいました。(以前の)小鳥は、新しい花嫁に言いました。
―両目を窓に向かってお投げなさい、その方が良く洗えるわ。

 シュオヤタルは両目を取り、窓に向かって投げました。小鳥はシュオヤタルの目を取ると、窓の下に投げ落とし、自分は少し水浴びをすると、すぐに家へ戻りました。シュオヤタルはかなり長い間サウナに入り、彼女がサウナから戻るのを(他の者たちは)待っていました。皇子は言いました。
―なぜ長いことサウナにいるんだ、なぜ戻ってこないんだ?
小鳥は言いました。
―より綺麗に洗い清めているのだわ、あなたの心をつかむために。こうなったら私はおじいさんとおばあさんの元に去ることにしましょう。
けれども皇子は止めました。
―彼女がサウナから戻ってきてから去れば良いだろう、待とうではないか。
皇子は召使いたちに言いました。
―行って、(彼女を)連れてきてくれ、こんなにも長い間入っているのだから、もう十分に身を清めただろう。

 召使いたちが行ってみると、サウナの中ではサウナ炉が倒され、(彼女は)人とは思えないほど煤だらけ、おまけに目が見えなくなっていました。
こちらに花嫁様がいらっしゃいます、と皇子のもとに連れていかれました。皇子は驚きおそれ、言いました。
―どこかに連れていってくれ、私には必要ない!
そうして、以前のように小鳥と一緒に暮らし始めました。小鳥は話しをするようになりました。
さて、こんな長さのお話でした。

単語

häkki [名] 鳥かご
sussieta [名] お隣さん, 近所の人, 近所の家
kirjo [形] まだらの, ぶちの, 雑然とした
hankkie [動] 手に入れる, 探し出す, 捕獲する, 稼ぐ
murkina [名] ランチ, 軽い昼食
lypsyä [動] 乳を搾る, 搾乳する
špouvata [動] 占いをする, まじないをする, 魔法を使う
mityš [疑/代] どのような, いかなる
lukušša [副] 鍵のかかった
trupa [名] 管, パイプ, 煙突
hinkalo [名] コンロ, 火鉢
laškeutuo [動] (高いところから)降りる, 下る
valosa [形] 明るい, 光り輝く, 光に満ちた
myössyttyä [動] 立ち戻る, 戻る, 復帰する, 曲がる
malostuo [動] 静まる, 鎮まる, 曲げる
kirota [動] 呪う, 罵る
elättäjä [名] 稼ぎ手, 養い手, 一家の柱
elättyä [動] 食べさせる, 養う, 扶養する
mykkä [形] 口がきけない, 押し黙った, 無言の
mielehini [形] 愛しい, 魅力的な, 感じの良い
rašita [動] 無慈悲なことをする, 憐れみのないことをする
šuali [副] 気の毒だ, かわいそうだ, 残念だ, 惜しい
tyrškähtyä [動] 感情を急激に示す, 激しくもたらす
l'udojetka [名] 人食い, 残酷な人(людое́дка)
kuurottuo [動] 霜がおりる, 冷める
šuššuna [名] 昔の農婦の上衣
helma [名] 裾
venččä [名] 教会での結婚式, 戴冠儀礼
valautuo [動] 水を浴びる
paššata [動] 仕える, ご機嫌をとる, アプローチする, 心をつかむ
šortua [動] 落とす, 落としてなくす, 押し倒す
noki [名] すす
inehmini [名] 人, 人間
šokie [動] 盲目の, 目の見えない
pölästyö [動] 驚く, 恐れる, 驚いてたじろぐ

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のウフトゥア村
採取年:1948年
AT 705+887

日本語出版物

この話型の組み合わせでは、見当たりません。

つぶやき

後半は、以前紹介した「青い親指の母娘」と同じ話型ですね。ただし、花嫁が無言をつらぬく理由は異なっています。「青い親指の母娘」では、首にとりついたアレが罵言を発するのを防ぐため。今回のお話では、娘は魔法(奇跡)的な起源をもつ故に言葉を失うと考えられています。元の姿に戻ったことで言葉を失うとは、人魚姫のようですね。

このお話を採取したカレリア民話の研究家ウネルマ・コンッカは、花嫁の忍耐力を試すこれらの話は、古いカレリアの婚姻にまつわる禁忌事項に端を発するのではないかと述べています。

それにしても、皇子の酷さといったら。シュオヤタルが可哀そうじゃない。何も悪さはしていないし、やられ損です。むしろヒロインの小鳥の方が謀をしてシュオヤタルを欺いていますね。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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