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[カレリア民話] またたび城のお姫さま(KIŠŠALAN LINNAN PRINŠEŠŠA)

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またたび城のお姫さま

 昔、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。彼らには娘がひとりいました。そして(ある日)、おばあさんがおじいさんを遺して亡くなりました。おじいさんは別の奥さんを探しに出かけました。魔女のシュオヤタルがやって来て言いました。
― おじいさん、どこから来たんだい?おじいさん、どこへ行くんだい?あたしをあんたのお嫁さんにしておくれよ。
― シュオヤタルをお嫁になんて、もらわないよ。

 おじいさんが旅を続けると、シュオヤタルも続いてきました。シュオヤタルは曲がりくねった(道)を走り抜けると(先回りすると)、尋ねました。
ー どこへ行くんだい、おじいさん?
― 奥さんを探しにだよ。おじいさんは答えました。
ー あたしを奥さんにしておくれよ。
ー ここにはシュオヤタル以外の者はおらんのか?ほかに誰もおらんのなら、お前さんを嫁にするとしよう。
シュオヤタルは言いました。
― (先に)家に帰ってお行きよ、あたしは後から行くよ、持参品を取ってくるよ。
 おじいさんは家に帰りました。シュオヤタルが後からやって来ましたが、持参品として連れてきたのは2人の娘だけでした。娘たちはまるでヒキガエルのようでした。おじいさんにも娘がいました。

 そうして暮らし始めました。シュオヤタルはおじいさんの娘をうとましく思うようになりました。シュオヤタルはお皿に水をくむと、おじいさんの娘に飲むよう命じました。ほかの娘たちが言いました。
― 飲んじゃだめよ、それは悪い水よ。
おじいさんの娘は言いました。
―お水は必要ないし、私は飲まないわ。
シュオヤタルはその水を娘の目に投げかけました。すると娘のお腹が大きくなり始め、妊娠してしまいました。シュオヤタルはおじいさんに言いました。
―この娘をどこかへやっておしまい!恥知らずが村を走りまわったから、お腹を抱えることになったんだよ。
おじいさんは娘に言いました。
―支度をしなさい、娘よ。森へ行こう。

 娘は、父が自分を殺すために連れ出そうとしていることを察しました。おじいさんは娘とともに、暗く深い森へ向かいました。おじいさんは哀れな娘を森に置きざりにし、去っていきました。娘はその場で泣くことになりました。
 娘は自分で森に小さな小屋を建て、そこで暮らし始めました。彼女は猫の男の子を産みました。人間から生まれたので、その猫は言葉を話し始めました。猫は尋ねました。
―お母さん、何か編むことはできないかな?例えば皇子から穀物をもらえないか、お城へ売りに行ってくるよ。

 娘は美しい手ぬぐいを木の根から編み上げました。それを息子の猫の首へ結びつけると、(引き換えに)穀物をわけてもらえないか、皇子のところへ持っていくよう言いました。
猫は持ってくると、言いました。
―またたび城のお姫さまが穀物を分けてもらうために、こちらをあなた様の元へ持っていくようお命じになりました。

 手ぬぐいがとても素晴らしい出来だったので、皇子は驚きました。猫は首に小さな穀物袋を結びつけると、母親の元へ戻っていきました。(娘は、「母親」ではなく「またたび城のお姫様」と言うよう、息子の猫に言いつけました。)

 皇子が手ぬぐいを気に入ったので、母親(娘)は悪い予感がしました。そして、小さな薪からつくった小屋だけしかないというのに、皇子がここを見に来るのではないかと、心配し始めました。
 すると突然、彼女の亡くなったお母さんが目に見えるようになりました。お母さんは娘に絹のハンカチを与えると、皇帝の(お城の)ように立派な部屋になるよう、十字にふりかざすよう言いました。(そうして)娘の部屋は、皇帝(のお城)よりも立派になりました。娘は美しいシャツを縫うと、息子の猫の首に結びつけ、贈り物として皇子に届けるよう言いつけました。

 猫は皇子のもとへシャツを走り届けると、言いました。
―こちらは、またたび城のお姫さまがあなた様に贈り物として送られたものです。
皇子は手紙を書くと、息子の猫の首にとりつけました。そこには、またたび城のお姫様にお城に来て欲しいと書かれていました。皇子はこんなにも(素晴らしく)縫物ができる者を見てみたいと思ったのです。

 息子の猫は手紙を娘(母親)に届けました。娘は立派な服を身につけました。息子の猫は、皇子の城への道を示すため、先に走っていきました。娘はお城にやって来ました。皇子は妹に「この娘と一緒に散歩に行くんだ。もし彼女が汚れた場所で(服の)裾を上げるなら、田舎者だ。だが、もしそうでなければ彼女は(本当に)お姫さまだろう。」息子の猫は(話を)聞いていて、母親にささやきました。「汚れた場所で、裾を上げてはだめだよ。」

 そうして彼らは皇女と一緒に街を散歩しました。娘はまるで皇室の者のように(汚れた場所も)堂々と歩きまわり、皇女も裾を動かすようなことはありませんでした。
城に戻ると、皇子は妹に尋ねました。
―どんな風に歩いていた?
妹は言いました。
―彼女は私みたいに、裾を持ち上げるようなこともせずに歩いていたわ。

 皇子はふたたび妹に「横になったら、ワラを(ベッドの)下に置くんだ。もしワラがあることが分かったら、彼女は(本当に)またたび城のお姫さまだろう。」
息子の猫は(話を)聞いていて、母親に言いました。
―朝になってどんな風に寝たかを尋ねられたら、こう答えるんだ。「よく寝れたわ、ただ丸太でも下にあるような気がしたけれど」 
 娘が寝かされると、シーツの下にワラが置かれました。娘は一晩、その状態で眠りました。朝になると、賓客(娘)が朝ごはんに起こされました。皇女が尋ねました。
―お姉さま、わたくしたちの寝心地はいかがでした?良かったかしら、それとも悪かったかしら?
またたび城のお姫さまは言いました。
―よく寝れたわ、ただ脇腹の下に、丸太でもあるような気がしたけれど。


 皇子はふたたび妹に(様子を)尋ね、娘が間違いなくまたたび城のお姫さまであると確信しました。
皇子は言いました。
―わたしは、君を花嫁として迎えることにしよう。

娘は家に戻りました。彼女の家は皇帝の(お城の)ようでした。
皇子は花婿となり、花嫁と、息子の猫もともに迎えに来ました。またたび城のお姫さまは絹のハンカチをふりかざすと、またたび城の部屋を消し去りました。それから、彼らは皇帝のお城で暮らし始めました。
めでたしめでたし。

単語

poikki [副] ~を越えて, 通って
polvi [名] 曲がりくねり, 屈曲
prituanie [名] (花嫁の)持参金
rupiskokuna [名] ヒキガエル
vihata [動] 嫌う
staučča [名] 深皿, 大皿
raškaš [形] 重い, 身重の, 妊娠している
juoksija [名] 走者, ランナー/《罵》ろくでなし, 恥知らず
mara [名] 腹
arvata [動] 推察する, 見抜く
pikkaraini [形] ごく小さな, ちっちゃな
kakla [名] 首
yhtäkkie [副] 突然
ilmeštyö [動] 現れる, 姿を見せる
šulkkupaikka [名] 絹の織物, 絹のプラトーク
risti [名] 十字架, 十字
kostinča [名] 手土産, 贈り物
kirjani [名] 手紙
lika- [頭] 汚れた
likani [形] 汚れた, 汚い
helma [名] 裾
mualaini [名] 田舎者
kuiškata [動] ささやく, そっと言う
kualua [動] 歩きまわる, 立ちまわる
mahtava [形] 偉大な, 堂々たる
lekahutua [動] 揺れる, 動かす
olki [名] わら
muiten [接] ~以外は
hirši [名] 丸太
lakana [名] シーツ, 敷布
kulki [名] 脇腹, 脇, 側面
kavottua [動] 失う, なくす, 消す

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のアロヤルヴィ(ペトロザボーツクで録音)
採取年:1947年
AT 545A

タイトルの Kiššalan linnan prinšešša は直訳すると「猫の(集まる)場の城のお姫さま」です。kiššala は kišša(猫)+ 場所を表す接辞 -la がついた形で、「猫が集まる場、猫の国」という訳になります。ただ、カレリア民話においては”国"という概念があまりないので、猫を伝えるイメージから「またたび城」という訳を採用しました。

日本語出版物

日本語での出版物は見当たりません。フィンランドやロシアの民話として類似のものは見かけます。

例えば同タイトルのフィンランド民話では、孤児となった兄妹が、遺産として牛などの家畜か、猫を分け合います。妹は猫を選び、猫は妹に感謝し、王子様の元にお嫁にいけるよう一計を案じます。おおまかなストーリーは同じですが、別の王様(悪人)を騙して城から追い出し、またたび城と偽って皇子を迎え入れるくだりが最後に語られています。

本物のお姫様かどうかを見定める手段として、ベッドの下に豆を置いておくというのは有名ですね。ここではワラになっています。

つぶやき

上述のとおり、フィンランド民話として類似話を多く読んできましたが、「娘が猫を産む」という設定は初めてで面白かったです。

シュオヤタルは民話『黒いカモ』にも出てきましたね(つぶやき欄で説明を添えています)。今回のシュオヤタルは娘をいじめ、追い出すだけですが、王子との結婚を邪魔しよう(自分の娘を代わりに嫁がせよう)と企て、最後には罰を与えられるバージョンもあります。

大筋を知っている話だったから訳しやすかったというのもありますが、語彙力がぼちぼちついてきたのか、辞書をひく回数が減り、訳のスピードもあがってきました。この調子で勉強していくぞ。頑張る。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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