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第33回カレリア語【ヴィエナ方言】 独学記録 - 動詞の過去形
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カレリア語のうち、本カレリア方言-ヴィエナ方言を学ぶページです。
方言分類に関してはこちらの記事をご参照ください。
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動詞の過去形
動詞の現在形は、現在語幹に人称語尾をつけることによって作ることができました。動詞の過去形も同じく語幹に人称語尾をつけて作りますが、過去語幹と呼ばれるものに人称語尾をつけることになります。
この語幹の作り方が、過去形の場合 一筋縄ではいきません。気をつけるべきポイントがいくつもあるのでゆっくり覚えていきましょう。
さらにカレリア語ヴィエナ方言では、過去語幹につける人称語尾が現在形とは異なるものもあるためこの辺りも要注意です。
現在形の作り方の復習をしたい方は、こちらをご覧ください。
>> 第7回 動詞のタイプとタイプ①の現在形
>> 第15回 タイプ②~⑥の動詞の現在形
過去語幹
過去語幹は基本的に、現在語幹に過去の標識である -i もしくは -si をつけることで作ることができます。
ただし、-si をつけた過去語幹をもつ動詞には、-i をつけた過去語幹もあります。つまり二つの過去語幹を持っているわけです(若干の例外もあります)。そのため、まずは「過去の印は -i である」と覚えておけばOKです。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76892722/picture_pc_c33bda6dc2043c0267cc4f814bd9c7b2.png)
例えば šanuo(言う)という動詞の現在形 šano-n(私は言う)に対して、過去形は šano-i-n(私は言った)という形になります。
さて、この過去の標識である -i, -si をつけて過去語幹を作るわけですが、-i, -si をつけることによって語幹最後の母音に変化が生じる場合があります。
この母音変化のパターンをまとめると以下のようになります。
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76908146/picture_pc_0dce64937fb1fd5dfd62c89b97deb4d3.png?width=1200)
動詞のタイプ③、⑤、⑥は1パターンのみなので、割と簡単に過去語幹をつくることができそうです。
タイプ④も、語幹最後の母音の組み合わせはいくつかあるものの、母音変化のパターンはどれも同じですので、割とシンプルです。
タイプ②も、基本的には2パターンなので、何とかなるでしょう。
そうすると、語幹最後の母音のパターンがもっとも多いタイプ①が一番苦労しそうですね。しっかりと整理しなければ。
上記の表ではひとまず -i のみの記載としています。標識 -si をつけるのはタイプ④の動詞の一部のみですが、語幹の作り方は同じです。
それでは、動詞のタイプごとに過去語幹の作り方を確認していきましょう。
動詞タイプ①の過去語幹
過去語幹を作る条件がもっとも多く分岐しているのがタイプ①の動詞です。
1)語幹の最後の母音が -o, -ö, -u, -y
⇒変化しない
これら4つの音は、どれも唇を丸めて発音する音です。これらの音の後に -i- をつけても、何も変化しません。
šanuo > 現在語幹 šano- > 過去語幹 šanoi-
kyšyö > 現在語幹 kyšy- > 過去語幹 kyšyi-
2)語幹の最後の母音が -ä, -i, -e
⇒ 消える
これら3つの音は、過去の -i- をつけると消えてしまいます。
elyä > 現在語幹 elä- > 過去語幹 eli-
eččie > 現在語幹 eči- > 過去語幹 eči-
lukie > 現在語幹 luve- > 過去語幹 luvi-
語幹最後の母音が -i の動詞は、結果的に現在語幹と過去語幹が同じになりますね。
3)語幹の最後の母音が -a
⇒ 基本的には消える(3音節以上の動詞では必ず)
a も基本的には、過去の -i- をつけると消えてしまいます。
vuottua > 現在語幹 vuota- > 過去語幹 vuoti-
4)語幹の最後の母音が -a
⇒ -a が o に変化
2音節の動詞で、語の最初の母音が a の場合、語幹最後の母音 a は o に変化します。
auttua > 現在語幹 auta- > 過去語幹 autoi-
jakšua > 現在語幹 jakša- > 過去語幹 jakšoi-
タイプ①の動詞には、階程交替がある語もあります。過去形では階程交替の出現が現在形とは異なる部分がありますので、後述の「過去形の人称語尾」の項目もしっかりと確認して下さい。
動詞タイプ②の過去語幹
タイプ②の動詞は基本的に2音節の語で、[長母音/二重母音] + -ja/jä, -(v)va/(v)vä, -ha/hä という構造になっており、-ja/jä, -(v)va/(v)vä, -ha/hä を取り除いて現在語幹を作っていました。
現在語幹に -i をつけると、その前に並ぶ母音に変化が生じます。
1)現在語幹の最後が -i で終わる二重母音(-oi, -ui)
⇒ 語幹の中の -i を取ります。
結果的に、現在語幹と過去語幹が同じ形になります。
voija > 現在語幹 voi- > 過去語幹 vo-i-
uija > 現在語幹 ui- > 過去語幹 u-i-
2)現在語幹の最後が -i 以外の母音で終わる
⇒最初の母音が消える
具体的には、-ua, -yä, -uo, -yö, -ie, -iä という二重母音が対象です。2つ並んだうち前にある母音が消えることになります。
šuaha > 現在語幹 šua- > 過去語幹 ša-i-
kerätä > 現在語幹 keryä- > 過去語幹 kerä-i-
juuvva > 現在語幹 juo- > 過去語幹 jo-i-
šyyvvä > 現在語幹 šyö- > 過去語幹 šö-i-
viijä > 現在語幹 vie- > 過去語幹 ve-i-
jiähä > 現在語幹 jiä- > 過去語幹 jä-i-
3)現在語幹が -če となる
⇒ -če が -či となる
不定詞が3音節以上あり、最後が -ija/ijä で終わっている場合、現在語幹は最後の -ja/jä を取り除いて、代わりに -če という音を付け加えて作りました。
この場合、語幹の最後の母音は1つですので、-e をとって過去の印 -i をつければ完成です。
ikävöijä > 現在語幹 ikävöiče- > 過去語幹 ikävöiči-
動詞タイプ③の過去語幹
タイプ③の動詞の現在語幹は必ず -e で終わりますが、その -e は過去語幹では消えます。
tulla > 現在語幹 tule- > 過去語幹 tul-i-
mennä > 現在語幹 mene- > 過去語幹 men-i-
purra > 現在語幹 pure- > 過去語幹 pur-i-
noušša > 現在語幹 nouše- > 過去語幹 nouš-i-
動詞タイプ④の過去語幹
冒頭で過去の印は -i か -si と記載しました。が、-si になる可能性があるのはタイプ④の動詞のみです。基本的には -i がついた語幹と、-si がついた語幹の2つの語幹を持つことになり、どちらの語幹もよく使います。ただし、中には -si をつける語幹しか持たない動詞もありますので、注意が必要です。
-i も -si も作り方は同じです。
1)現在語幹最後の母音が -ua, -yä, -uo, -ie の場合
⇒ 最初の母音が消える
タイプ④の動詞の動詞のうち、ほとんどが該当します。
vaššata > 現在語幹 vaštua- > 過去語幹 vašta-i- ; vašta-si-
šiivota > 現在語幹 šiivuo- > 過去語幹 šiivo-i- ; šiivo-si-
huhuta > 現在語幹 huhuo- > 過去語幹 huho-i- ; huho-si-
ruveta > 現在語幹 rupie- > 過去語幹 rupe-i- ; rupe-si-
keritä > 現在語幹 kerkie- > 過去語幹 kerke-i- ; kerke-si-
2) 現在語幹の最後が -ja となる場合
⇒ -ja をとって -si をつける
不定詞が -rata/rätä で終わる語が対象で、過去語幹には必ず -si がつきます。
varata > 現在語幹 varaja- > 過去語幹 vara-si-
動詞タイプ⑤の過去語幹
タイプ⑤の現在語幹は -iče となり、必ず -e- で終わっていますので、やはり過去形では -e が消えることになります。
tarvita > 現在語幹 tarviče- > 過去語幹 tarviči-
動詞タイプ⑥の過去語幹
タイプ⑥の動詞では、現在語幹が -ne- となっていました。やはり最後の -e- は消えます。
kevetä > 現在語幹 kepene- > 過去語幹 kepen-i-
puata > 現在語幹 pakene- > 過去語幹 paren-i-
特別な変化をする動詞
次にあげる動詞は、過去語幹が特殊な形ですのでそのまま覚えてしまいましょう。
出かける lähtie > 現在語幹 lähe- > 過去語幹 läksi-
話す paissa > 現在語幹 pakaja- > 過去語幹 pakasi-
見る, 会う nähä > 現在語幹 niä- > 過去語幹 nävi-/näki-
行ってくる käyvä > 現在語幹 käy- > 過去語幹 kävi-
3人称複数形の過去形
さて現在語幹でも、3人称複数形だけは語幹の作り方が異なっていました。
タイプ①では、現在語幹+-ta/tä(参照:第7回)、タイプ②~⑥では動詞の不定詞=3人称複数語幹(参照:第15回)でしたね。
結論から言うと、タイプ②以外は3人称複数形の過去形は3人称複数現在形から作ります。
1)3人称複数の現在形が -tah/täh(タイプ①, ④, ⑤, ⑥)
末尾の -tah/täh を -ttih に変えると、過去形の出来上がりです。
タイプ① lukie > luvetah > luve-ttih
タイプ① keittyä > keitetäh > keite-ttih
タイプ④ matata > matatah > mata-ttih
タイプ⑤ tarvita > tarvitah > tarvi-ttih
タイプ⑥ pareta > paretah > pare-ttih
2)3人称複数の現在形が -tah/täh 以外(タイプ③)
具体的に言うと、子音+-ah/äh という形になっています。この 子音+-ah/äh を取った形に、-tih をつけます。
タイプ③ männä > männäh > män-tih
タイプ③ tulla > tullah > tul-tih
タイプ③ purra > purrah > pur-tih
タイプ③ noušša > nouššah > nouš-tih
3)タイプ②
タイプ②だけは、現在語幹 + -tih という形になります。
現在語幹 現3複 過3複
タイプ② viijä > vie- > viijäh > vie-tih
タイプ② juuvva > juo- > juuvvah > juo-tih
タイプ② šuaha > šua- > šuahah > šua-tih
ただし、不定詞が3音節以上あり、最後が -ija/ijä で終わっているタイプ②動詞は、タイプ③と同じく3人称複数現在 子音+-ah/äh を取った形に -tih を付け加えます。
タイプ② ikävöijä > ikävöijäh > ikävöi-tih
過去形の人称語尾
まずは現在形を作る際の人称語尾を復習しましょう。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76894389/picture_pc_34df5eed6f17281429ddeb69e10f3800.png)
過去語幹につける人称語尾は、現在形と若干異なります。
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76894490/picture_pc_cea12f397b35ad6f2a1b4f19a64e7456.png)
太字部分が、現在形と異なる箇所です。
hiän(彼/彼女) の場合、過去語幹がそのまま人称形となります。何もつける必要はなし。
myö(私たち)の語尾が、-mma/mmä から -ma/mä に変わっています。m が一つ落ちていますね。
työ(あなたたち)に関しては、2つの人称語尾を使い分ける必要があります。過去語幹が母音1つで終わっている場合には -ja/jä という語尾を、母音2つで終わっている場合には -tta/ttä という語尾を使います。
そして、階程交替にも注意が必要です。
現在語幹では、階程交替のある語の場合、1・2人称は弱階程、3人称は強階程語幹を用いていました。
過去形では、上述の現在形と語尾が異なる人称、つまり hiän、myö、työ のときに強階程が発生します。
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76903264/picture_pc_0f906cf8bed54aafc59fdb2ad2380a6c.png?width=1200)
注意すべき点が多すぎて、理解が追いつかなくなりそうです・・・が、まだまだ弱音を言ってはいられないようです。
現在語幹が -o/ö, -u/y で終わるタイプ①の動詞
さて、過去語幹の作り方と過去形にもちいる人称語尾も確認し、これで過去形がすべて作れるようになった!と言いたいところなのですが、更に注意点があります。
タイプ①の動詞のうち、現在語幹が -o/ö, -u/y で終わっている場合、人称代名詞 hiän、myö、työ に結びつく過去語幹からは、過去の印である -i が落ちてしまいます。なんてこった!
šanuo(言う)、 kyšyö(尋ねる)という動詞を例に現在形/過去形を比べてみましょう。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76899910/picture_pc_9c5fbbf5ebb6e22353ce7f38a0ef400c.png?width=1200)
-i がないと、過去形って感じがしないのはフィン語学習者だからでしょうか…とにかく要注意です。
過去形の変化一覧
それではすべてのタイプの動詞を過去形に人称活用させましょう。
一覧でそれぞれの変化を確認してください。
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76904915/picture_pc_8c8b316fa781c4fecac024a871b2daeb.png?width=1200)
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76908921/picture_pc_6cc2f284d862b484fe40668687b56366.png?width=1200)
学習後のつぶやき
いやはや、文法事項を整理するのに時間がかかりました。覚えることも多くて慣れるまで大変ですな。
過去語幹に表れる母音変化に関しては、フィンランド語の知識が役に立つので良いのですが、人称語尾が変わるものがあること、現在形と語尾が変わる人称形においては過去の印 -i の脱落や強階程化といった、思いもよらなかった変化が起きていることには驚きでした。苦労して作った語幹に、さてあとは人称語尾をつけるだけ…と思いきや、人称語尾でも苦しめられるなんて。
こうした文法規則の複雑化は、長い間書き言葉をもたず、口頭言語が近代まで優勢だった特徴かもしれません。
まとめるだけで時間がかかったので、過去形を使った応用は次回以降にまわします。