『服福人々 4/坂本拓』を読みました #見切り発車ポスト

 坂本拓さんの漫画、『服福人々』の4巻を読みました。
 タイトル通り、服(買い物・コーディネート)が毎回出てくる上で、人間模様も描かれたりする漫画です。タイトルが体を表しているのもいいですね。
 アラサーサラリーマンである主人公の佐久間(サク)と、元ファッションデザイナーで現在は別の仕事をしている廻谷さん。ひょんなことから二人が一緒に服を買いに行くことになって、そこから人間関係が広がります。
 最近こういった一話ごとにテーマを掘りつつ、人間模様も回すというスタイルの連載が多いように思います。『Q、恋ってなんですか?』とか……。最近でもないか。
 さて、4巻はこの漫画の最終巻なんですね。3〜4巻は電子のみの展開ということで、あまり売れなかったのかもしれない……、しかしエモいです。多胡さんが可愛いです。
 以下、この漫画の名バイプレイヤーである多胡雀さんを中心に語ります。

 多胡雀さんはカメラの専門学校生? で個展を開くほど。特にカップルの写真をテーマとしているようです。
 初登場時は廻谷さんの知り合いの光理ちゃん(ショップ店員)に頼まれ、コーディネートの写真を撮る、という役どころでした。サクと廻谷さんに「2人って 付き合ってんですか?」と不躾な問いを放つなど、天才肌で人の気持ちが分からないキャラを醸し出していました。
 カップルの写真を撮るのは、『私まだ人を好きになったことがないから/たぶん わからないから撮ってる』という説明。これも人の気持ちが分からない人っぽい。
 でもこの直截さがサクの心には届いたようで、サクの『32にもなって未だによくわかってなくて/自分が女性を好きなのか男性を好きなのかを』という本音を引き出します。

 この時点でけっこう相性良さそうですが、二人の関係が動くのが1巻の7話!
 多胡さんの営業に押され写真の個展に行ったサクが、『プレゼント選び』を手伝うことになります。プレゼント選びは白熱し、一路横浜まで向かいます(メイン舞台は東京?)。
 この横浜行がきっかけで、多胡さんはサクを意識し始めるのですよ! 初恋ですよ初恋!
 そしてデートに誘っちゃったりします。サクは(事情により)悩みますが、結局は誘いに乗ることにします。
 2〜3巻あたりは二人の関係性が進展していく様子をニヨニヨしながら見守ることができます。レッツニヨニヨ!
 しかしこの漫画はあくまでサクと廻谷さんの漫画なんですよね……。
 多胡さんはあくまで引っ掻き回す役どころなんです……。

 多胡さんが最後に主役を張るのは、4巻の『花火大会』のエピソード。
 ファッションとしては一応浴衣を取り上げてはいますが、実質多胡さんが負けを認めたのがメイン、と受け取れる話になってます。
 花火大会に行ったサク、廻谷さん、光理ちゃん、多胡さんの4人。じゃんけんで負けた多胡さんは飲み物を買いにいきます。
 そして飲み物を持ってきたとき、仲良く語らうサクと廻谷さんに見とれて、思わずスマホのカメラで撮ってしまう。
 奥ゆかしい描写ですが、おそらくここで多胡さんは『サクには廻谷さんがお似合いなんだな』と認め、敗北したのでしょう(そうだと確定はされていません)。
 ここでメインストーリーに戻ると、一緒に服を買う仲間だったサクと廻谷さんはお互いの心の傷を明かし合ったりしたあと、二人でデザイン事務所をやることになるんですね。
 まあこれは二人が『付き合ってんですか』と言われれば微妙なところ、というか故意にそのへんはボカされている。二人が付き合っているのなら多胡さんは恋に敗れたことになりますけど、そこがボカされているので多胡さんが大勝利した世界線を想像することもできます。しかし、自分が見る限りサクと廻谷さんがくっついて多胡さんは敗北したのだと思います。その敗北を悟った瞬間が花火大会だったわけです。

 ついでに言うと、廻谷さんがファッションデザインをいったん止めた理由は相棒であった棚田さんの自殺なんですよ(ついでに言うには重いですが)。
 でも棚田さんが何故死を選んだのか、それもこの漫画中には説明がない。これもボカされているわけです。
 『作中で不明なことを、作者が出しゃばって説明してはいけない』という、漫画家としての信念みたいなものが見え隠れしますね。

 というわけで、多胡さん中心に『服福人々』を語りました。
 『人々』中心でファッションについては語れなかったけど、そちらもちゃんとしてると思うので興味があれば是非。

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