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【小説感想】君たちは絶滅危惧種なのか?/森博嗣

 WWシリーズを読むのが停滞している……。この作者の本は結構発売してすぐ買って、すぐに読むようにしていたはずなのだけど、このシリーズになってからは停滞しているのだ。それは、タイトルで何巻なのか判断しにくいというのもある。流れがわからないのだ。
 とはいえ、流れがわからなくても別にいい。何巻から読もうと問題ないような話になっているからである。森博嗣の作品は大体そう。いや、放置しないのが一番なんだけど。でもWシリーズも、全部読んだけど、順番に並べろって言われたらできないと思う。

 さて本作の話。観光地に動物園があって、そこで不審な殺人? が行われる。また、担当者が失踪? する、という出来事がある。この世界ではとっくにいろんな生物種が滅びていて、人間も子孫を残せなくなり、ウォーカロンという人間の代替種のようなものが多くなっている。動物園もロボットがほとんどである、という状況。だから、動物が人間を殺すこと自体が考えにくいのだが……というところから話が始まる。
 主人公のグアトは人間とウォーカロンを分類する技術の第一人者で、これまでもその実績を買われいろいろな活動をしてきている。その中でテロ的なものに巻き込まれたりしてきた。で、今回も、この動物は本当はウォーカロンなのでは、みたいな話になる。

 本シリーズ、読んでいて思うのは、全体的に白いイメージで統一されているなあ、ということである。これは人によるだろうからなんとも言えないが。Wシリーズは装丁が白だったからそのイメージを引きずっているのかもしれない。でも、無色な感がかなりあるのだ。SFらしく人間的な感じをあまり受けない。人間が滅ぶかもしれないという中で、その倫理とか、活動はどうあるべきなのかということを思考実験しているような感じ。現実と地続きであるようで、遠すぎて現実感があまりない、その上手い中間点にいる。

 で本作の感想なんだけど……いつものWWシリーズでしたね。なにかが起こったり、いや起こるんだけど、それが世界や主人公に結果的に何かを与えることがないというか。物事って本質的にそうかも知れないね。ただ通り過ぎるもの。そういうイベントを切り出した感じ。恋愛小説とかだったらその恋愛が成就するかどうかみたいな後に引く事になったり、そうでなくても、人生に大きな影響を及ぼすような物語だったりするけど、この作品群はそうではない。それが良いとか悪いとかではない。そういうもんなのだ。話が切りの良いところで終わった感もないし、この話が次にどう繋がるのか気になったりもしない。だから、どの巻から読んでも良いのだ。
 ウォーカロン技術ってすごいいびつだなあと思いました。こういうのって、もっと徹底的に動物実験を繰り返してから、人間に適用するものだと思うけど、それをすっ飛ばして人間のクローン・ウォーカロンを作っているし、人間の寿命を伸ばしたり、脳のポストインストールなども行っている。それだけ、人間が子孫を残せなくなったり、種として滅びそうということに危機感を覚えて急いだってことなんだろうかな。
 それからヴァーチャル。実世界と変わらないヴァーチャル世界ができた時にどうなるか、という話。そのへんについては、この話より前の巻の方に詳しいが。今のネットだってそれなりに現実を内包しつつあるけど、それを越えて演算によって全部賄えるような世界になったら、楽しいのかね。楽しいかも。ただまあ今生きているうちには実現は無理かな。VRとかあんなだしね。

 このあともう3冊も出ているのか。近所に書店がなくなったのもあってなかなか調べなくなってきているなあ。懇意にしている書店があるけれど、文芸はほとんど入荷しないからなあ……。

堕落する準備はOK?