例年に比べ暑さが厳しくなる模様です
(今年の夏は例年に比べ暑さが厳しくなる模様です。熱中症などへの警戒と対策をして下さい。)
「私たちが子供の頃ってもっと涼しかったっけ?」
数年前に行ったらしい音楽フェスの派手なTシャツを着た朗は振り返らない。どうやらワイヤレスイヤホンを付けて動画を見ている様だった。
急にこの部屋には孤独と暑さしかないように思えた。膨張し、中身が繊維状でスカスカになった暑さに編み込む様に孤独が絡まり合った。私はその絡まりを切り刻む様に少し乱暴に朗の背中を叩いた。
「ねぇ、聞いてる?」
「何だよ、聞いてねぇよ。何?」
朗はイヤホンを片方だけ外し、ようやく振り返った。自分でも質問が弱いのは分かり切っていたが、ブレーキではなくアクセルを踏んだ。
「だから、前ってさ、もっと涼しかったっけ?」
援護を求めて、肘を伸ばしテレビを指さしながら私は訴えた。すると朗の体は気持ち程度私側に残し、残りの全てをタブレットの方へと預けた。
「なんだそれ。夏は暑くないと夏じゃないだろ」
とても硬質な壁にぶつかった。人類の進歩を論理的に構築したその科学的な物質からは恐怖すら感じた。過去とも未来とも繋がっていない、この空間は相変わらず孤独だった。以前は確かに繋がっていた。昔こんなことがあった、今度はここに行こう。
朗はお喋りだった気がする。全てを覚えている訳ではないが、言葉に溢れていた。完全にタブレットに正対した朗は外していたイヤホンを再度つけて最近配信されたドラマを見始めた。朗の背中が初めて硬そうに見えた。私は息苦しさを感じて、スマートフォンに逃げ込んだ。
そして私たちは来週、結婚する。