page 51 Story of 永遠 8/29
ザッ…
目を開いたら自分のベッドの上じゃないと気がついた。
仕事で疲れて自宅のソファーで眠ってしまう事も有るけど、今日は何だか様子が全く違う。
まず第1にここはどこだったかと、ぼんやりした頭で上の方に視線を向けた。
周りの青い光に浮かび上がるようにしてグランドピアノが目に入った。
ピアノ
レッスン室
美月先生の…、レッスン室
「 ‼︎ 」
一気に昨夜の記憶が蘇って来た。
甘く温かく存在しているブランケットに触れる。
これ…?
雨音に混ざる、かすかな寝息に目線を向けると、
俺の方を向くような体制で膝を抱え、壁に体を寄せたまま眠っている彼女を見つけた。
愛しいって言葉は、こういう時に使うんだな…
彼女が俺にブランケットかけた後、そのまま眠っちゃったに違いない行動に頬が緩む。
そんな自分がカッコ悪くて、衝動的に口元を手で押さえた。
我に返って、人差し指でそっと美月先生の前髪に触れると、髪はサラリと音を立てて、するすると指から零れ落ちて行く。
「 ん… 」
ゆっくりと上がってく、くるんとした睫毛が可愛くて思わずじっと見てしまう 。
永遠「おはよう… 」
美月「え、お…おはようございます」
永遠「朝、だね」
美月「朝…みたいですね」
永遠「鍵閉め係として、俺だけ残らせてもらった」
美月「私、寝ちゃったんですね」
永遠「昨日の事って、覚えてる?」
美月「ピアノを弾いてた所までは…」
永遠「もうそっから大変でさー」
美月「え、全く覚えてない。ショック…」
目の前で青ざめた美月先生の表情に、笑いが込み上げるのを必死で抑える。
永遠「凪が困ってた」
美月「どうしよう…
凪さんに何をしたんだろう私…
全く覚えてな…」
更に表情が変わる美月先生を煽るように、雨音が強くなる。
永遠「あのね、凪の事が好きだって言って、しつこく絡んだりしてた」
美月「 ‼︎‼︎ 」
声にならない声で息を止めて目を大きく開けた。
・
永遠「 あ、嘘ですけどね 」
美月「 永遠さん、怒りますよ私!」
・
あ、初めて俺のこと、“名前”で永遠さんと呼んだ。悪くない。てか、いいなそれ。
そういえば、もうピアノのレッスンは一区切りついているから“講師と生徒の関係”も、リセットしていい時期だ。
「怒ります」と言ったのに、
表情を緩めてる俺に彼女は不思議な顔をした。
永遠「あのさ、美月ちゃん…」
こうなったらもう、名前で距離縮め作戦に路線変更。
美月「はい」
永遠「色々言っておかなければならない事が有る」
俺はわざと少し低めの声で言った。
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