はじめてのソウル一人旅
仕事で行き詰まりを感じて受けたコーチングで、まずは趣味でもよいのでやりたいことをやるべきとアドバイスされた。実は前々からやりたかったことは、海外旅行だ。
当時は仕事や家庭のことを考えると、一人でソウルなんてまさかいけないと思っていた。行くこと自体も、それを言い出すことさえ不安を感じた。
でも、仕事はリモートでもできる。そして家族に話してみると、反対どころか背中を押してくれた。共働き夫婦で負担も多い妻が送り出してくれたことは有り難かったし、行って本当に良かった。
韓国といえばまず、食である。韓国料理は大好物だ。本場で食べられるのだから、何をどこで食べるかについて、自然と気合いが入る。
初日の夜から気負っているわけだが、ここは見知らぬ土地となる。しかも一人だ。梨泰院の街をうろうろしながら、覚悟を決めて老舗風の店へ。入ってみれば、遠慮なんていらないぐらい一人で入りやすい店だった。
そしてそこで食べたサムギョプサルは、最高だった。鉄板の上でキムチやナムルと共にジューシーに焼かれた豚の三枚肉。二人前からの注文だけど、ま
ったく食べるのに苦にならない。ビールとの相性も抜群だ。
小腹を満たして夜の街を歩く。たまたま訪れた梨泰院は、週末には大賑わいの若者の街だ。多くのクラブが立ち並び、音楽が鳴り響く。たくさんの人が道に溢れ、ソウルの勢いを感じた。東京以上だと思った。
シティツアーバスに乗って、ソウルの街並を体感する。良さそうなレストランを見つけ、途中下車して訪問する。南大門市場にある屋台も、そんな風に訪れた。Netflixで見て気になっていたクルグクスと本場の冷麺。つけあわせのキムチも含めて、とても美味しかった。
南山ソウルタワーに立ち寄り、高い場所からソウルを展望する。どこまでも続く町並みや緑の多さ、そして遠くの山々など、ソウルの全体感を掴むことができる。
そして景福宮に行き、歴史を感じる。景福宮は、高麗を滅ぼし李氏朝鮮の初代国王となった李成桂が作った王宮だ。広大で贅沢な空間の使い方に関心した。当時こうした並外れた宮殿を作ったからこそ、いまも観光地として賑わっている。歴史資産がある国や街は恵まれているし、訪れるべき場所となる。
そして李氏朝鮮の4代目世宗がハングルを作った。独自の文字を作ったことは、国民のアイデンティティを高める上で英断だと思う。こうして旅をきっかけに、多少なりとも歴史を学び、縁の地を訪れることは充実した時間の過ごし方だ。
ちなみに、李氏朝鮮は最後の統一王朝となる。その後日本に併合され、第二次世界大戦では南北に別れ、それがいまも続いている。朝鮮半島の歴史は、食や衣服などの文化にいまも脈々と繋がっている。だからこそ他の国とは違ったアイデンティティがあるし、それを体感できることは旅の醍醐味だ。
さて話を食に戻すと、ぜひとも食べたかったのは、生蟹の醤油漬けであるカンジャンケジャンだ。新鮮でなければ味わえない。蟹の甲羅と共にだされるので見た目は圧巻、そして味は海鮮の風味と醤油のコクがよく合い美味だ。
そしてしっかり油で揚げた厚みのあるチヂミは、食べ応えが満点だった。日本の韓国料理屋で出てくるものとはまったく別もので、まさに韓国のソウルフードとなる。地元の人々も昼間からマッコリと共に楽しんでいた。
その他、チゲ、ユッケ、踊りダコ、ハットグと楽しむべき食がたくさんある。どれが美味しかったかを決めかねるほど、それぞれ皆美味しかった。一番3泊4日で最大限楽しめたと思う。
韓国の市場はとても活気がある。屋台はところ狭しと並び、客引きの声も熱心だ。地元の人々は、買い物だけでなく、普段から食事もしているようで大変賑わっている。
その市場の飲食店で、韓国人カップルと仲良くなった。マッコリをご馳走され、乾杯したのが話す気きっかけだった。大学で出会った二人は、いまはちょっとした遠距離恋愛をしていて、ちょうど中間に位置するソウルでデートをしていたそうだ。
次の目的地だったチムジルバンまで、わざわざ見送ってくれた。とても穏やかで優しい二人に心が温まった。日本に来たら、絶対にもてなしてあげたいと思った。こうした思わぬ出会いも、一人旅だからこそ起きる良き思い出である。
旅を終えてみると、こんなにも開放的で新しいことに触れる機会をなぜ躊躇していたんだろうと思った。自分にとって一人旅は、日常の責任や義務から解放され何者でもなくなる感覚を与えてくれる。
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