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(職場と学校のリーダーシップ開発:その6)研修から職場に戻った時の心理的安全性

「権限によらないリーダーシップ」研修を終えて職場に戻ってきた社員・職員が,研修で習ったようにリーダーシップを発揮してみようとするとたちまち先輩や上司に嫌われる.「心理的安全性の不足している状態」である.

心理的安全性

Amy Edmondsonの心理的安全性の図で言うとどの状態に相当するのだろうか.一つの可能性は,成果指向がもともと低くて,リーダーシップは特に要らず,むしろ接待力や調整力があればいいような職場,つまり右下のcomfort zone(木村遼介氏はこれを絶妙にも「ユルイ」職場と訳した)である.ちなみに,とにかく心理的安全性を高めればいいのだと考えると,このユルイ職場になってしまいがちである.失敗は許容されるが誰もそこから学習しないので成果は上がらない.しかし心理的には安全である.何のための心理的安全性なのかと言えば,VUCAに対応しイノベーションを生み出して成果を上げるためなのである.つまり心理的安全性はゴールではなく手段に過ぎない.

新人やヒラ社員・職員のリーダーシップが嫌われうるもう一つの可能性は,その職場が左上のanxiety zoneにあって,失敗したり怠けたりして罰せられるのではないかという恐怖や不安を利用してメンバーを働かせるような状態である.この場合,失敗すると新しいことを試みた者本人が罰せられるので,「権限によらないリーダーシップ」は失敗の可能性を増やすだけの余計なものと敬遠されてしまう.

管理職ではないし管理職昇格目前でもない社員・職員にリーダーシップ研修を依頼する人事部の狙いは,左上のanxiety zone(キツイ職場)を,右上のlearning zone(学習する組織)に持っていくところにあることが多いと思われる.なぜかというと,下半分(サムイ職場とユルイ職場)の場合は,成果が上がっていなくても困らない(とメンバー皆が思っている)状況なので,必要なのはリーダーシップ研修ではなく,むしろ,実はこれらのチームは成果をあげないとサステイナブルではないという,外からのメッセージ等であろう.

そもそも,どういうときに左上から右上に移動する必要があるのか.それは,どちらでも成果指向は強いのだが,左上の方法(キツくする)では成果が実現しない時である.失敗しないことを最優先していると,VUCAに対応できなかったりイノベーションが生まれにくかったりするからであろう.

では次に,さて,左上(キツイ職場)を右上(学習する組織)に変えるには何が必要なのか.あるいは左上から右上に行く必要があるのに何が右方向の移動(心理的安全性の増進)を阻んでいるのか.上の図をじっと見ているだけではその答えは出てこない.成果を上げるためにはいろいろ試してみて失敗することも許容し,しかし失敗したらそこから必ず学ぶようにする.そうならないのは,失敗することを許容しないか,失敗したときに学習しないかである.このいずれもリーダーシップの問題であると考えられる.これを次回論じよう.

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