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今たべたいものは
「今食べたいものはなに、」と聞かれたら、「いや、べつに」とか「なんでもいいよ」と返事してサラリーマン時代、誘われた昼メシには黙ってついて行った。
食べるものに文句は言わない。
特に会社勤めの頃には腹に入れば何でもいいと思い、移動の電車内や人通りの少ない道でコンビニのおにぎりですませることもあった。
三たび目の今回の自粛で食べれないものや、食べにくくなるものがまた出てくる。
天王寺駅北口に昔ながらの定食屋がある。
ショーケースにおかずが並んでいる昭和の頃にはどこの駅前にも普通にあった街の定食屋だ。
夜、合気道の稽古が終わり、帰りにひとり寄ることがあった。
いつものお姉さんが私の顔を見るとまずはビールの小瓶を持ってきてくれる。
そして、ショーケースをはじからはじまで確認し、たいてい冷奴を手にする。
お姉さんが余分な水を切ってくれる。
ビールを飲んだら酒、夏でも熱燗がいい、時々ライムのチューハイ。
あの体に悪そうな緑色が好きだ。
エメラルドのような緑が私の郷愁を誘う。
そして、カレーライスを頼む。
メリケン粉から作った懐かしい味の、辛くないカレーライス、メニューにはそうあるがライスカレーかも知れない。
ステンレスの皿に盛られたカレーライスは今どきのカレーの濃い茶色ではない、やや黄色に近い薄い茶色をし、メリケン粉の粘度を感じる。
豚肉のコマ切れがちょいと大きめ、そして有っても無くてもよさそうなグリーンピースが4,5粒、でもこれが無かったら寂しいカレーライスになってしまう。
福神漬けが多め、そして必ずウスターソースを持ってきてくれる。
味のわかっているここのカレーには最初からソースをかける。
一見の店でヘマはしない。
カレーを食べて酒を飲んで、だいたい決まった金額、千円チョットの会計を済ませて店を出る。
いつでも所要時間は20分から30分である。
こんな店で長居をしてはならない。
回転させてやらなければならない時間である。
しかし、そんな店にとってのゴールデンタイム、私にとっては至福の時間が無くなってしまった。
酒も飲むなと言う。
納得のいかぬ我慢はやはりストレスがたまるものである。
しかしながら、ここは我慢しなければならないと思っている。
お店は納得があったかどうかは別にして言われた通りにやっているんだから。
お店は大変である。
ここはじっと我慢して、また平和な時間が流れるようになったら少し長居をさせてもらって、腹いっぱい酒を飲んでカレーライスを食べて来ようとひそかに企んでいる。
ダメだと言われたらやりたくなるのが人間である。
しかしながら我慢できるのも人間である。
でも、あんな体に悪い時間に酒を飲んで、カレーを食べたいな
こんなお店が無くなってしまうのは我慢ならんなぁ、、、