京都で食べなかったアジフライ定食
一昨日、酒の席に誘われて久しぶりに夕の京都に向かった。
10月も20日を過ぎたのに大阪はまだ蒸し暑かった。大阪駅から新快速に乗り換えると図らずも空席に恵まれ、不覚にも座った瞬間に眠りに落ちていた。気持ちの悪い脂汗を全身に感じ「ああ、」と目が覚めると、新快速は桂川の鉄橋を渡るところだった。しばらく走ると京都駅の一つ手前の西大路駅がある。駅に差しかかる少し手前に女性下着メーカーの社屋がある。「そう言えば、この近所に来たな」とある女性を思い出していた。
もう40年も前になる。京都でゼネコンの事務屋をやっていた頃である。知り合いの年上の女性がその近所で喫茶店を始めたのだ。祝いを包み、平日の昼前に行ったのだと思う。なんだか白色の喫茶店だったと記憶する。昼になると近所にたくさんある町工場の工員さんたちがやって来て昼の休憩時間を過ごしていく。みんな日替わり定食を注文していた。その日の日替わりのメニューがアジフライだった。白い喫茶店の中で灰色の作業服を着た工員さんたちはがやがやと楽しそうに話しながらうまそうにその定食を食っていた。
40年も前の記憶の断片が何故かその日に限って湧き上がってきたのである。
その女性は先輩に誘われて、いつも連れて行ってもらった祇園のクラブの年上の女性だった。「お金をためて喫茶店を始めるのが夢なのよ」と聞いていた。その女性と二人で飲みに行ったこともない。ただ店に行くと普通の世間話をする相手だった。女性とはうまく話ができない私がなぜかその女性とは普通に会話ができた。そんな女性と生涯に出会えることが何度かあるとこの歳になって思ったりする。
記憶はそれだけである。たぶん私はコーヒーを飲んだだけでアジフライ定食を食べていない。カウンターの隅に座り黙ってコーヒーを飲んで祝いだけ置いて帰って来たんだと思う。そんな性格なのである。たくさんの注文が入って一人てんてこ舞いする彼女の仕事を増やしちゃいけないと思いそそくさと店を出てしまったに違いない。いつもそんな感じなのである。
京都での酒宴にはアジフライは出なかった。ヒラメの刺身に鯛の塩焼き、ハモ鍋に最後はウナギが出てきた。私が得意としないなんとも京都らしい店であった。帰りに大阪駅で途中下車してガード下に寄った。メーカーズのロックを2杯飲んで「エッグ」を突っつき、私しかいない客を相手する年上のママと少しだけ話して終電に乗った。