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私の冷やし中華

高知の野菜を送ってもらった。
いつも気の利いたものを送ってくる男からだ。
同じ会社にいたが、席を隣り合わせたことは無い。
共通の上司を通じ、同じ営業案件を追いかけたことがあった。
しかし、私はその時にもうその会社にはいなかった。
不思議なものだが人の縁とはそんなものだろう。
違う組織の人間となって初めて紡ぎ出した縁、同じ組織にいたら同じ土俵に乗せられて喧嘩別れしていた相手かもしれない。

私が表舞台に立ち、彼は裏方に徹してくれた。
受注後のトラブルも私が表舞台に立ち、彼は裏方の工作で汗を流してくれた。
それだけの付き合いである。

年に一度くらいは顔を合わせていたのだがこの二年間顔を合わすことは無い。彼も転職し、お堅い会社でお堅い立場にいる。「もう少し我慢しましょうか。」と年上の私を諭すような言い方をする。

それでいいよ。「俺はまだまだ元気だからね。」と返事している。
自身の年を噛みしめ、高知県土佐町の赤いトマトは甘かった。
キャベツは愛知県産、玉子は大阪府産。
高知の野菜はまだまだ続く、しばらくは包丁を握るたび、料理を口にするたびにその男の顔を思い出す。

次に思い出すのは年末だろう。
三色の冷やし中華は美味かった。

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