くるみの木
胡桃の木を見たことがありますか。
たぶん今頃その緑の実は、赤ん坊の拳くらいの大きさになり、寒く厳しい冬に備えて収穫されているのでしょう。
今年の梅雨時にここで書いた記事の中のこと、でもそこには載せてないほんの瞬時の私の記憶です。
青く茂る胡桃の木、葉の間から顔を出す緑の丸い実にあの硬い大きなタネが潜んでいるなんて私には信じられませんでした。
山形県西置賜郡小国町、新潟との県境、山形でも有数の積雪地帯と聞いていました。
母の実家に嫁いだ、ヒロエさんの故郷です。
亡くなったヒロエさんは辛抱強く優しい女性でした。
私が一度だけ小国町に行ったのはヒロエさんの亡くなったあとです。
認知症を発症していた母が最後になった帰郷の際、ヒロエさんに会いたいと言い出し、車で日本海側からJR米坂線に沿って南陽市赤湯に向かった時のことです。
空が青く、濃い緑の間を流れる小国川の清流の輝きが今も脳裏に残っています。
こんな美しい土地で育ったからヒロエさんは優しかったのかと思いました。
生前、人生の転機に差し掛かっていた私に「ひでき君、自分を信じなさい。幸せになりなさい。」と背中を押してくれました。
なぜかヒロエさんの生家の前にあった胡桃の木を見てその時の言葉が甦って来たのです。
小国の胡桃は山奥の盆地の猛暑に耐え、寒い寒い冬に備えて力を蓄えるのでしょう。
ヒロエさんの優しさは小国の美しい夏の緑からではなかったのです。
それからは想像もつかない、寒い、厳しい身動きさえも許してくれない辛い冬だったのです。
その時の胡桃は、ヒロエさんの優しさの源泉を私に教えてくれたのです。
ヒロエさんは胡桃のような女性でした。
それがその時の私の瞬時の記憶です。
その時の記事です。
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