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怖いと思ったこと その4

ゼネコン時代のことである。
関西のある地方都市の営業所に配属され、右も左も事情の分からぬままマンション新築の地元対応の責任者を拝命していた。
それこそ右往左往しながら毎日を送っていた頃である。

その頃、所長が一日の長い時間を使って建築・土木の責任者と打ち合わせをしていた。
この所長はややこしい話、人に聞かれたくない話を半径1m先の人間に聴かせない特技を持っていた。

やばい話だなと思い、触れないでいたが所長から説明があった。
「施工したプールで事故があった」と。
小さな子どもがプールの排水口の排水圧で引き込まれて死にかけた。
そんな話だった。
設計と運営管理上の話であり施工のみ請負ったゼネコンには関係無いことのように思えてそう訊ねてみた。

すると、プールの運営者である町から相談が来ていたのである。
聞き齧っただけでは事故に思えたこの件が、事件の可能性があるとのことだった。
プールの底の排水口に張り付いていたのではなく、人の足で貼り付けさせられていた疑いがあると言うことであった。

しかもその足は子どもの父親の足であった。
事故、死亡事故となる可能性もあった事故を偽装して慰謝料を町から巻き上げる魂胆だったのである。
その後の事、顛末は忘れてしまった。
怖いなぁと思いながら、こんな事はままある事とも思ったのを覚えている。

人間のやる事はどんなにひどい事であってもやるのは所詮人間である。
やる事は想像出来るからひどい事だとは思うが怖いこととは思わない。

実は背筋が凍るくらい怖い思いをしたことがあるのだが、今は事情があって口には出来ない。
自身の欲望だけのために行う犯罪となるであろう異常行動である。

欲望と異常、私には持ち合わせないこの組み合わせは私の想像の範疇を超える小説のような事実を作り上げる。

そんなことが実は世の中にある。
たくさんはないだろうが、間違い無く点在する。

これほど怖いと思ったことは無いかも知れない。
そんな事実がこの世の中にはある。


※この文章を用意していた昨日、
『プール排水口に吸い込まれ日本人男児死亡』というベトナム・ホーチミン市での悲しい報を耳にしました。
これとははまったく関係のない出来事です。
この件に関しては早期の原因究明がされ、同国のまだ発展途上であろう『娯楽市場での危機管理』という意識改革の一助になって欲しく、そして子ども達が安心して遊べるプールにしてもらいたいと思います。

たまたまの偶然に驚きました。
私は時々そんな偶然に出くわすことがあります。

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