取り繕った自分、解放した自分What you want楽曲レビュー
「あなたは何がほしいの?」
約4分間の曲中で私たちは45回もそう問いかけられる。
改めて数えてみると、軽やかな美しいメロからは想像できない数でぎょっとした。
「What you want」
THE ORAL CIGARETTESが一昨年出したアルバムKisses and Killsに収録されている曲だ。
KissesとKillsは正反対の言葉。その2つがandで繋がったタイトルのこのアルバムは、愛と憎しみなど、正反対のものは表裏一体であることがテーマになっている。
その5曲目になっているWhat you wantは、外側から見た自分への愛と内側から見た自分への愛が表現されていると私は考察した。
私はこの曲が本当に大好きで、1日に何回も何回も聴いていてその度に心が救われている。
現在の自分と重なるというのもあるが、自分というものが分離していくのが感じられて切なくて堪らないからだ。
胸が締め付けられ、自分の中の何かが抉り取られ、そして熱い涙が溢れ出てくる。
ここから先は、この曲を聴いて私が考察したこと、感じたことを書き綴っていこうと思う。
(※和訳、解釈はあくまで個人的なものなのでご了承ください。)
シンセサイザーの音とそれに合わせたエレキギターのイントロで曲は始まる。軽くて艶がありつつも何となく切ない音。ギター音はシンセの音に合っているようで、どこか分離している。
イントロだけでも、表面上は楽しそうに生きているように見えるが、心には闇を抱えている人間をイメージした。
Tell me want you baby,you don't stop so sing your other side
「あなたのほしいものを教えて。
あなたの反対側を歌うのをやめないで。」
最初の歌詞はこの問いかけから。
「あなたの反対側」これはどういう意味?
反対側を歌うってことは自分に嘘をつくこと?
それって逆に自分を偽るのでは?
この歌詞をそのまま受け取るとそのように思うのではないだろうか。
私は、ここで言っているあなたとは表面上の自分のことで、
「あなたの反対側」=本当の(本能のままの)自分
を表現していると考えた。
生きるのが器用だろうが不器用だろうが、自分のやりたいがままに生きれるほど世の中はうまくできていない。周りの人間と一緒に生きるために絶対に誰もが自分を殺したことがあるはず。
サビの歌詞に、こんな言葉がある。
「きっと願い事叶うなら。
ずっと愛される人であること」
「もっとあなたを思えば思うほど
そっとあなたが離れていく並行線」
ずっと誰からも愛されたい。自分の中のその願いに寄り添うためには、波風を立てないように、相手の望みを優先するために、自分を偽るしかない。結果、周囲からは愛される(忌み嫌われることはない)かもしれないが、本当の自分がどんどん離れていってしまう。
自分というものが2種類できてしまうのだ。外の世界で生きていく用のものと、感情中心の本能的なもの。…やがて自分を繕うことに慣れてしまうと内にある自分は存在が薄れていってしまう。
・
ここで言う「あなた」は自分自身のことと先程書いたが、
自分(本能と表面上のものを含めた)と自分の周囲の人間の意味にもどちらにも取れる気がした。
自分を偽ってイエスマンにずっとなっていれば反感を買うことも争うこともないし、みんなに愛されるはず。
でもそれをいざやってみると、反感を買わない分「都合のいい奴」と利用されたり、「自分の意見がなくて受け身になってる人」と評価を下げられたりしてしまう。
Aメロでは
「ずっと選ばれし世界あるなら きっとあなたに辿り着いた平行線」
Bメロでは
「もっとあなたを想えば想うほど そっとあなたが離れていく並行線」
「平行線」と「並行線」どちらも交わることのない線。
いくら尽くしても尽くしても、報われることがない。それは自分にとっても、周りにとっても。
本当の自分に嘘をついて周りの目をうかがって生きることがどれほど負の連鎖であるかを思わせる。
ここで、サビ前に繰り返しあるフレーズにも触れようと思う。
You are my smile
You are my hurting lies
You are my crying
You are so bright tonight
(ここのYou=本当の自分。感情のある自分と解釈した)
「あなたは私の笑顔(の源)」
あなたがあることで楽しい、嬉しいと素直に思うことができる。
「あなたは痛い嘘。」
偽った私にとっては、逆にあなたの本心(自分の本音)が生きるために障害となる。なぜならそれを出してしまうことで周りから痛めつけられる可能性があり生きにくくなってしまうから。
「あなたは叫び。」
本心を失った私に訴えかける。
「あなたはとても輝いている。」
自分の素直な気持ちというものは時に残酷だ。
でも、自分の本能が標準化されてしまったら?
その自分は本当の意味で生きているのか??
この部分だけでもとても考えさせられる。
曲は後半になると熱量が最高潮に達する。
「あなたは何が欲しいの?」
「あなたは何がほしいの?」
何回も何回も何回も、力強く感情的な問いかけで頭が、精神が、グラグラと揺さぶられ理性が飛んでしまいそう。
腹の奥底から吐き出すような、ある意味シャウトに近い歌声、ギター、ベース、ドラムの音圧で押し潰されそうだ。
押し潰されて自分の中の声、本能の声が、吐き出されそうになる。
「出てこい。なにがしたいの?何が欲しいの?自分の本能。出てこい。」
山中拓也が、オーラルが、そう訴えている様だ。
嘘をつき続けて何枚も何枚も被さっている皮が剥がされ、霞んでしまった本心がはっきりと浮かびあがってくる。そんなことがイメージされる。
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Kisses and Killsツアーは2018年〜2019年春にかけて行われ、アリーナツアーでその世界観が思い切り表現されている。
2019年アリーナツアーの一曲目はこのWhat you wantで始まり、
「この世から人間の感情がなくなりませんよう に。」
という山中拓也のMCの後、「嫌い」で締めくくられる。
人間の感情は綺麗なものばかりでないため、忘れた方が楽な時もある。でもオーラルは、綺麗な感情も歪んだ感情も全部含めて美しいと示している。
感情を忘れずに持ち続けることで、人は人でいられる。
What you wantは、忘れてしまった、無理矢理消してしまった自分自身を再び呼び起こしてくれる曲ではないだろうか。あるいは「こうであらなきゃ。」と縛りつけた自分の縄をほどき、解き放ってくれる曲だとも思う。
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