白天抜刀サキュバシィ #2 「炉」
「おねえさま、今日はどちらに?」
「T-9-Bの炉のエーテルが切れかけだったはずだ。そっちに回って帰ろう」
中年男性を襲撃した後、迂闊な一人歩きをしている男らから更に《リキッド》を搾取した三姉妹は、地味な巻頭衣とボロいゴーグルで変装し、三輪トラックで非正規居住区を走っていた。長女ノルンは助手席、次女リタは運転席、三女マリアは荷台で三人分の装備類のお守りである。
元気な少女、女性、婆と、枯れ木の如き爺らで騒がしい露店街のそこは、人をかき分ける様にのろのろとしか走れない。
「マリア、エーテルの分離具合は」
「順調……とは言えない。やはり触媒が駄目。変換のためのエネルギーが変換後と変わらないんじゃ元も子もない」
「せいぜい一般人のリキッドは中等、変換触媒も使い古し、そして反応炉は輪をかけておポンコツ。不安ですわね」
リタが空いた手で窓枠に頬杖をつき、ブルネットが埃っぽい風になびく。
「今回まではそれで凌ぐとして、次の一手を考えなくちゃな」
「それについて情報がある。ねえさん、これを」
リアガラスごしにマリアがノルンに見せたのは、『新型反応炉搬入』と題されたスケジュールペーパー。なぜか、今のご時世却って高くつくハードコピーのそれだった。
♂♀
目的の地区に到着し、床下に隠された反応炉を開いたときにも、変換は終わっていなかった。男性の精《リキッド》を反応炉に注ぐに最適な状態《エーテル》に変換するには、触媒と時間が必要だ。
「いつもいつもすまないねえ」
「いいんだよトリばあ。ここらみんな変わりはないかい」
普段は偽装小屋の扉を封鎖する様に座っているトリばあに、柔らかな様子でノルンが尋ねる。
「ああ、元気だけが取り柄じゃからな。漬物食うかね」
「もらおう」
「わたし大根の黄色いのだーいすきですわ!」
「変換を見てるから私は結構」
三者三様の答えに糸目をさらに細め、トリばあが反応炉の横の壺から漬物を出してそれぞれ二切れほど手のひらに出してやる。
「それでさっきの紙だが」
「ん、これ」
とマリアが渡したコピー紙にノルンはカリポリ漬物を食しながら目を落とす。が。
「時間と場所しか書いてないじゃないか」
「だからこそ、クサい。何か特別なものの可能性」
それは明後日夜。場所は公衆搾精局69分所隣の本体とも言える施設、第八研だった。
【続く】