少女ファイル 満ちぬ街のムメイとクーニグンデ #3
(して、折り入って頼みがあるんじゃが)
「にゃんでふか」
中華麺に正体不明肉と野菜くずを混ぜただけの焼きそばもどきを口いっぱいに詰め込んだムメイが、クーニグンデの言葉に答える。なんと彼女ムメイは、お金を持っていた。お金を持っていたが、使い方を知らなかったので、行き倒れていた。そうして猫にひとしきり呆れ返られた後、広場状の空き地に自然発生した屋台街で、食事をしているところだ。
(口の中のものを片せ。あと、お主も頭で考えれば伝わるぞ)
おまけで皿に盛ってもらったクズ野菜に顔を突っ込みながら、クーニグンデがそう教える。
(え、ほんとうですか)
(本当じゃ)
(べんりですねえ)
もぐもぐ。
(して、頼みというのはじゃな……魂を少しくれんか)
(いいですよ)
(ウム……難しい頼みというのは分かっておる。説明は今からしよう……にゃんて?)
クーニグンデがあんぐりと驚いた……ような顔をする。猫であるので臭いものに出会ったときの顔にしか見えないが。
(どういうことかは分からないですけど、私は人々への奉仕のために生まれた存在ですから)
まあ、廃棄処分される以外でしたら。ですけど。とムメイはふにゃっと笑いながら付け加え、最後の一口を飲み込み、プラコップで水を飲み一息つく。
(……どういうことか、説明を聞きなさい。いや、聞いてほしい。まず、先程ワシがしようとしたのは、お前の身体へのワシの魂のインストール)
何事か考え、クーニグンデは少しの沈黙の後語りだす。
(そろそろ……この身体が限界なんじゃ。その代りにカラのお主の身体に入ろうとしたわけじゃが、実際はお主の魂があまりに大きくて、目に入らなかったのじゃな)
ムメイは黙って聞いている。傍から見れば猫と見つめ合っているのだが、そこは今は無視しよう。
(じゃが、魂を分けてもらえば、当面は凌げる。お主の魂の大きさなら、障りはない……と思うんじゃが、そこはワシを信頼してもらうしかない)
突然の申し出、かつ、まったく理外の出来事だけに、断られて当然のことだ……そう言って俯くクーニグンデを抱き上げ、ムメイは言った。
(でもほしいのでしょう)
(ほしい)
猫の魔女は、誤魔化さず言った。
(私が、真に自分から何かをあげられるのは、初めてなんです。だから、信じます。なんで魂? がそんなに大きいのか、わからないですけれど)
そういって、ふにゃっと、暖かな太陽のような笑顔を浮かべる。
――大きな爆発が起きたのは、そんなときだった。
続く