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魔族砦で放課後を #1

「砦を取りに行こうよ!」
ふわふわの髪を跳ねさせて、せんちゃんが例によってそんなトんだ発言をしたのは、私達が放課後の部室で『各々猫動画を見て最強の猫動画を決める決定戦』をしているときだった。

「ゑーと……最初から話して」
指をくるくる回しながらよーこちゃんが言う。なに? その仕草。
「えとね、BGのハウジングシステム? ってのがあって、その一環でフィールド上の施設を奪える機能があるんだって! 昨日から」
「え、できるのそんなの。そういうのって普通エンドコンテンツじゃない?」
「ふみちゃも知らないの?」
眼鏡と沈み込んだ上半身をソファからずり上げながら尋ねるふみちゃに、被せて私が言う。多分BGに一番詳しいのは彼女だ。

「システム全部把握してるヒトなんかいないって。ほぼ毎日変わるし?」
諦めたような目をしてふみちゃが吐き捨てた。それはゲームとしてどうなの。
「いいですね。それが出来るか分からないけれど、たまには皆でBGに潜りましょうよ」
そんな事をしていると、それまで黙っていたベランジェールさんがホロタブの画面を消して、デスクの向こうで立ち上がる。

「部活動、しないとそろそろ怒られますよ。オトリツブシです」
なんでもないような様子で、そんな怖いことを言う。カフェオレ色のエキゾチックな顔には、少しいたずらっぽい色があるように思えた。

サザンシェル女子学院eスポーツ部、創部半年にして5回目(くらい)の廃部の危機だった。

「ところでソニアちゃん、動画選んだ?」
「えーと、じゃあこれで」
「……」「……」「……」

私の選んだふーちゃんの動画はレリック級につき反則ということで、ベランジェールさんが優勝と相成った。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。