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お買い求めは、山志田仏壇で 【後1】

【前編】【中編】【後1】【後2】

「お客様! お客様たちは逃げて!」
店長が声を張り上げ、瀬戸さんは急いで避難路を開ける。一方、函から湧き出した黒い”なにか”は一瞬わだかまったかと思うと、爆発。店全体をビリビリと震わせた。
「がぁっ!」
「きゃあ!」
「うわぁあ!」
「ぬぅう……」
俺は反射的に耳を塞ぎ尻餅をつき、店長と瀬戸さん、その他一部お客様が吹き飛ばされる。エダマキさんだけは、かろうじて踏みとどまっていた。

「な、なんなんですかあれ。なんであんなもの店の中に持ち込んだんですか!?」
「あの怨霊、路上に置くと禁固刑なんだよ」
なんだその超危険物は。

《gshhhhhhhlaaaaaaaaa!!》
その間にも、”怨霊”とやらはつむじ風を描くように店中を吹き抜け、店中の物がひっくり返る。
お客様がたは、幸いほぼ避難出来ていたようで、今、瀬戸さんを後尾に全員店外へと出た。

そして俺たちの目の前で再び黒色が渦巻き、店の真ん中で人型に膨れ上がる。
「「「おお、おお、臭い臭い。狭苦しいトコを出たと思ったらひどいニオイのトコに出たもンじゃ」」」
老爺とも幼女とも聞こえる不思議な声音がその身体全体から聞こえた。
「店長、金は後で払うぞ」
エダマキさんはそう言うなり、山志田ストロングとライトをそれぞれ5つずつぶちまけると、フィンガースナップ一発、全てに火がつく。
は? 魔法?
「集い、逆巻き、纏い、穿け……セイヤーッ!」
俺の驚愕の顔を一顧だにすることなく、エダマキさんは金剛杖を構えたかと思うと、もうもうと上がる煙がそれに巻き付き、そのまま彼は弾丸のような勢いで突きかかった。

バヅン! と軟質な物を圧し潰すような音が響き、怨霊の左脇腹に当たる部分が弾け飛ぶ。
――弾け飛ぶところで、認識が追いついたのだが。
怨霊は苦鳴の一つも上げず、弾けた逆側、右腕を掬い上げる軌道で振るった。豪と唸りを上げて迫るそれをエダマキさんは金剛杖の反対側で受け流す。間髪入れず杖で怨霊の逆の腕を打ち据えると、鈍い音が確かな手応えを知らせた。
だが、受け流されたと思われた腕は霧消し、別の箇所から生えて再びエダマキさんに打ち掛かる。
それを受け止めたのは札だらけの腕。とっさに跳ね上げることでインパクトを減殺したのだとしても、骨は軋み足は撓む。しかし、しゅうしゅうとその接触した場所から怨霊を焦がし害する音が響いていた。札の効果なのだろう。

そして、一呼吸ほどの静寂の後、打ち、払い、突き。

打ち突き薙ぎ、避け弾け殴り、ポジションを替え。

薙殴弾避避薙突替避殴替打弾弾突殴突替打打薙ぐ。

次第に加速する二者は示し合わせたかのように応酬し、巻き込まれた周りの物体が弾き飛ばされ、窓にびしりと音を立てて亀裂が走る。

とても近付ける雰囲気ではない。そう確信したその時。
「「「gshahaaaaaaaa!! 爆ぜろ」」」
焦れたらしい怨霊が大振りで牽制したかと思うと、両手を床に叩きつけた。衝撃波がエダマキさんと周りのものをまとめて吹き飛ばす。
直接受けたエダマキさんはおろか線の細い店長はその余波だけで転がり、俺は……
「……いや、なんでお前さっきから食らってねえの?」
「え? あ、そういえば」
俺は、そよ風くらいにしか感じていなかった。

【続く】

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むつぎはじめ
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