おねショタ108式の43『逢瀬―水底より深く、水面《みなも》より高く―』
戦乱から遠く、とある海辺の集落でのはなし。
主人公は、その何の変哲もない集落の少年。
彼はもうすぐ家業の漁師となる予定である。
そんな彼には、一つだけ秘密があった。
少年が崖から身を躍らせる。
自殺ではなく、それは逢瀬。
海に潜り海中から入り込まないといけないその洞窟は、陸上からも海上からも見えない、秘密の場所である。
少年が身につけた古い首飾りから幻惑的な青い光が溢れ、暗闇を照らす。それが逢瀬の合図だ。
少年はそこで、ドキドキしながら「それ」の来訪を待つ。
「おまたせ。まったかしら……?」
そして姿を現したのは、半人半魚の美しい娘だった。
かつて、今よりもずっと子供だったころ、度胸試しと言って海に飛び込んだ彼は不運にも足を攣らせてしまい、溺れてしまったことがある。
その時助けてくれたのが、彼女だった。
その御礼にと定期的に陸の世界の話をしたり果物を持ってきたりしに来ていたのだったが、数カ月前から二人の関係は単なるかつての怪我人と恩人の間柄ではなくなっていた。
身の回りの世間話もそこそこに、二人は秘密の場所で愛しあう。
もうすぐ会えなくなる。
"互いに"そんなことも言い出すことも出来ずに…… 。
そして幾月かあと。
少年が舟を任され一人沖に出ていると、天気が急変し突然の嵐となる。短くない年月この海で暮らしていた彼のこと、これが通常のことではないことに気付き慎重に舟を進める。すると、見たことのない小島が現れた。
それこそは海の神を祀る祭壇。そしてそこに捧げられるのは……
「どうしてここに!?」
見たこともない七色の珊瑚や貝で身を飾り立てられた、人魚の彼女。
則ち、先ごろ復活した海の神の要求に従い、彼女は生贄になるのだという。当然それを肯定できるはずもない少年は彼女を開放するためその祭壇に乗り込むが、海の古老らはそれを抑え込む。
相争う間に遂にその海の神が現れる。なんとそれは天を覆うほど巨大な烏賊の化け物!
精神感応で彼らは威圧され、少年も屈しかけるが、その時突如首飾りが発光し、その光に貫かれ少年は自由を取り戻す。
そして同時に、その首飾りから声が響く。真の海の神を名乗ったその存在曰く、その魔物は強大な力を蓄え、神をも僭称する偽物であること。今に限り力を分け与えること。しかし、器の小ささゆえ少年の命は保証できないこと。
その申し出を一瞬の迷いの後力強く受け入れ、少年は海神の槍で偽神へと立ち向かう。神の力は只の少年を神話の英雄のごとく強化し、触腕を切り飛ばし、身体を穿ち、止めを刺さんと最後の力を振り絞る。身体が弾け跳ぶ予感んに震えたとき、人魚がそれに力添えをする。
「一人で耐え切れぬなら、二人で!」
しかして放たれた最後の一撃で偽神は打ち倒され、神の犠牲を免れた二人は、末永く幸せに暮らした。