9月!おねショタの季節!「月が綺麗ですね」
10月→
「月、綺麗……」
「うん……」
煌々と輝く満月を前に、早乙女駆流が絞り出すようにそう言うと、長月ありさも同様に魅入られたように応じた。
⭐🌕⭐
9月半ば、十五夜。少し時間は巻き戻り。
お月見をしよう。と、いつもながら突然言い出したありさに連れられ、山頂への遊歩道をお菓子とジュースが入ったリュックを背負って登りきった後、駆流は喘鳴を発しながらベンチに倒れ込んだ。
「ありさ姉《ねえ》も……手伝ってよ……」
「え~? 私レデ―だしい? レジャーシートくらいしか持てなーい」
あー、あと、紙コップとか紙皿とか。などとトートバッグを片手にかわいこぶりっこする彼女を、似合わねえ。と駆流は鼻で笑う。
「ななな何をー! こんな美女捕まえて!」
「美女って言うには俺より頭一個分くらいデカくなってから言ってほしいね!」
「駆流くんが勝手におっきくなっただけでしょー!」
「ねえちゃんが成長止まってるだけじゃい!」
「この前0.5ミリ伸びてたもん!」
「誤差だよ!」
「あと女性の平均身長はそんなに高くなりません!」
「平均になってから言え!」
「ムキーーー!!!」
と漫才を繰り広げる通り、二人の歳は6つ離れていたが、今や身長は横並びになっていた。より詳細に言えば、5年間ほど彼女が150センチという大変キリの良い数字を堅持した結果、早めの成長期を迎えた彼が追いついたというわけだが。
「ぐ、ぬ、ぬ……あんなに鼻とか色々垂れ流してた駆流くんがこんなに……」
「鼻以外のモノは垂れ流して無いよ!?」
ようやく呼吸が落ち着いた駆流は、リュックを開いて乳酸菌飲料ウォーター(2リットル)やジャガイモチップスを取り出す。
ありさもトートから取り出したレジャーシートを広げ、お菓子を受け取り紙皿に盛っていく。
「て言うか、曇りだし」
「おかしいなあ……」
展望台に一つだけ灯った電灯は、薄闇の中弱々しく二人を照らすだけだった。
「あの……さ、大学、東京に行くって、ほんと?」
「……うん」
少しの沈黙の後、おずおずと言葉を紡ぐ少年に、彼女はそう言ったきりまた黙り込んでしまう。
「あの、あのさ……」
駆流が再度、意を決して何か言おうとしたとき、突如、カーテンが引かれたように雲が晴れた。
「月、綺麗……」
「うん……」
まるで昼のように二人を照らす満月の清涼な光に、駆流が思わずと言った調子でそう呟くと。ありさもそう応じる。
「あ、明日もあるし、お月見しちゃおうか。ほら、飲み物頂戴」
そして、何故か慌てたようにありさはそう言い、二人分のコップに爽やかな香りのジュースをなみなみと注いだ。
「その話、私もしようと思ってたの」
駆流にコップを渡し、プイと月を向いてしまったありさは、ポツリと言う。
「寂しいな」
「でも、行くんでしょ」
「うん」
「じゃあ、行きなよ。文学部」
何故なら、それが彼女の夢で、彼女がそう決めたのだから。
「おねえちゃん」
駆流は、振り向かないでと手で制しながら、ありさの隣りに座った。
「月が、綺麗ですね」