おねショタ108式の83『聖なる夜の遅刻組』 #パルプアドベントカレンダー2020
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「こと日本において25日の夜はもはや何の特別な時間でもない」
「然り」
「チキンとケーキがフシギと安いので家飲みに良い日だ」
「然り」
「そもそも仕事納め直前にチュッチュイチャイチャやってられっか」
「然り……いややっぱダメじゃないかなハァちゃん」
「ハァちゃんと呼ぶなあ! 葉華莉《はかり》と呼べえ!」
「はいはいハァちゃんハァちゃん」
12月25日、夜。
流行りのアレの影響により高校以来の友人、由香里との飲みすら画面越しになったごく普通のOL、葉華莉は、コンビニに置いてある一番いいワインと売れ残りのクリスマスケーキ、チキンを前にコタツに陣取り、ドッタンバッタン大騒ぎしていた。
お互いなんとか仕事を納められそうなのと”昨日”の穴埋めの代償の合せ技で、今日は定時に退勤し得た貴重なオフ・タイムである。
「実際どーなのー。ハァちゃん職場に適当な男の人いないの」
「全員既婚」
「アッ……」
「既婚でもアプローチしようと思うほどの人も居ないしそもそもしようと思わない」
そらそうだよねと頷き合う。
「ていうかさあ、私は……年上より……むにゅ……」
「あれ? ハァちゃん? 葉華莉? おーい……おー……」
そして満腹、疲労、アルコール、女子力0あったか度100の部屋着により、しめやかに彼女の意識は溶けていった。
🍰 🍰 🍰
リン、と言う音がした。
「むあ? ……うわっ、酒くさっ」
辛うじて口は閉じて寝ていた葉華莉だったが、口の端から出たのは乙女汁とそんな可愛げもなにもない間抜けな声。部屋の照明はオートで消灯されており、通話終了してスリープ状態になったPCの電源LEDだけが寝息のように点灯していた。
いや、それよりも注目すべきは、ベランダのガラス戸のクレセント鍵にかけてあった鈴が落ちたということである。理由は思い出せないが……ネットでバズった防犯法だったか……普段閉め切っているクレセント鍵に小さな鈴をつけていたのだ。その名の通り三日月型の金具が、真下まで音もなく回った。
「こんばんわー……」
「こんばん……わ? 誰……?」
「えっ!?」
外の街明かりのせいで黒く影に沈んだその人影はやけに小さい。それに、その声もやけに幼い。
手探りでリモコンを探し当て照明を点灯すると、全灯モードの白色光が目を刺すほど強く部屋を照らし出した。
そこには、サンタコスをして大きな麻袋を背負った白人少年がいた。
いたのだ。
🍰 🍰 🍰
「あれ!? こ……こんばんわ……」
返事が返ってきたことに心底びっくりした様子のその少年は慌てたようにそう挨拶をする。
「僕は見ての通りサンタさん! 昨日届け忘れたプレゼントを……って、あれ? 小春ちゃんは6歳じゃなかったっけ……? 大分大きいぞ?」
「誰がミニマムお豆じゃーーい! 私は20歳くらい上だし小春ちゃんは上の階!」
「そんなこと言ってませんよ!?」
丁度上の階は家族向けのフロアであり、足音など迷惑を掛けるからと件の小春ちゃんとそのご両親がわざわざご挨拶に来たことがある。
小春ちゃんはおりこうさんで……うう……6歳なら年齢的には産める……。と嫌な記憶が葉華莉の脳内に蘇った。そして昨日の夜深夜帰ってきたら……うう……。軋むベッドの幻聴が。二太郎。一姫の後は二太郎なのか……。生々しい幻覚が襲う。
「あの、部屋間違えたんなら失礼しま……」
「悪夢だ……いや? 良い夢か? こんな洋物美ショタが来たんだから……」
辞去しようとするサンタの少年をよそに、勝手に傷つき勝手に悪夢を再生する葉華莉はブツブツとひとりごちる。
「うふふふふ……そうよ。私は彼氏が出来ないんじゃなくてショタ趣味だからこの時期一人なだけなのよ……イエスショタ。ノータッチ。これは夢。良い夢。変われ変われ良い夢に変われ」
「あの?」
ほぼ不法侵入も同然の部屋間違いをした以上、ちゃんと謝った上で帰りたい少年は言い募る。おっちょこちょいだが真面目な彼に向けて、ガバっと葉華莉は顔を上げた。
「まどうてください!」
「はっ!?」
「まどうてくださいまどうてください!」
「えっ……あ、ツェねずみ!? ケンジミヤザワ」
職業柄童話や寓話には詳しい。
「そこを開けたせいで部屋がサムイサムイでーすー! 償いに10分……いや、5分でいいから抱きしめさせて! 夢ならそのくらい叶えてよね」
「ノータッチって言ってませんでした!?」
「夢だから良いの!」
そういうことになった。
🍰 🍰 🍰
「わあ……良い匂い。ミルクみたいな」
「あ、あの……汗くさくありません?」
「んーん? 部屋の芳香剤にしたい」
甘い香りが葉華莉の鼻腔いっぱいに満ちる。サンタ少年……ニコラと名乗った彼は今や葉華莉の膝の上に乗せられ、クシャッとしたブラウンのくせ毛をクンカクンカされていた。
ふかふかの女子ボディ(自称)を更にふかふかの部屋着とどてら(小豆色)で包んだそれは、ニコラの背中になにか柔らかいものを押し付けるともなく押し付けていた。
「あーあぁ……寂しいなあ。こんな夢見るくらいだもんなあ」
「夢じゃないですけど……また来年は良いことありますよきっと」
ニコラくん無責任~。と葉華莉は頭をぐしゃぐしゃと撫ぜる。
そうすると、彼に負けず甘い香りがアルコールの残り香と混じって少年の鼻をくすぐった。
「それにしてもサンタさんは本当だったんだ……」
「親御さんになる時に市役所から申請書もらいませんでした?」
「サンタさんそんなシステマチックに来てくれるの!? いやそもそも人の親じゃないんだよワタシわっ!」
「そうでしたね」
「どこでそんなの習うんだよう……ゼクシイとか?」
「ですね」
「マジか」
あすなろ抱きというよりニコラの両腕をロックする形になっていて逃さない感がすごい。
時間は午前に差し掛かり、約束の10分を回っていた。
🍰 🍰 🍰
「じゃあ、僕はこれで。小春ちゃんにプレゼント渡さないとなので」
そして、別れ難いところをニコラの解錠能力の応用であすなろ抱きを解除させられた葉華莉は渋々彼を見送っていた。
「じゃあ……また今度会えるかな?」
と潤んだ瞳で彼女は言うが、立つかせめてコタツから出るべきではなかろうか。
「いや、僕にはサンタ長という心に決めた女性《ひと》が……」
「うわああああああんもうやだああああああ。これ来年はプライベートで私のとこに来てニャンニャンみたいなパターンじゃないのおおおおお!」
そう言うや葉華莉が後ろにぶっ倒れてジタバタしてる間に、ニコラはベランダから影も形も居なくなっていた。
ニコラくんが件のサンタ長に雷を落とされたのは、また別のお話……。
【おわり】
あとがきにかえて
やあ!昨日ぶり!
の飛び入り参加作品であり
の作品でもあります。
両方ともよろしくね! 爆ぜろ!