10月!おねショタの季節!「それとも、トリック?」
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「トリック・オア・トリート!」
「帰れ!」
私こと神無月かなが玄関を開けて出会ったのは、吸血鬼っぽい姿をした従弟、天木平太の姿だった。
10月も終わる日、とある地方都市の一角、住宅地。
この数年で聞き馴染み始めたハロウィンは早速曲解され、お菓子と仮装という要素を祭りに再構成され、それはそれで盛り上がっていた。
「って、あれ? 他の子達は? というかお菓子用意するのは町内会だけじゃないの」
「そっちは終わったよ」
町内会により企画されたイベントとしては、子供のいる家を中心とした有志のご家庭を訪問して仮装した児童がお菓子をせしめるという心あたたまる企画のはずだが、一人で一軒家に暮らしている地味で偏屈な自宅警備員を自称する私に声が掛けられるわけもなければ乗るはずもない。
「ほらみてこれ。かっこいいでしょ」
と、平太くんはくるっと回転してみせる。察するに、今日しか着れない浮かれた仮装を見せに来たのだろうか。
「はいはいかわいいかわいい」
「かーっこいーいーいー!」
半笑いで言ってやると、髪をワックスか何かで逆立ててスタイルしている平太くんがむくれたように言う。
「はいはいかっこいいかっこいい」
「なにて?」
「なにも?」
なにかおかしなノイズが混じった気がする。お菓子だけに。
「それで? へいちゃんはそのか……っこいい姿を見せに来ただけ?」
「へいちゃん言うな! お菓子いっぱいもらったから持ってきたのと、最近冷えてきたから母さんが使ってた上着持って行けって」
という通り、彼の手には紙袋が左右に持たされており、その中には小袋入のお菓子と、私同様、やや大柄な叔母さんが昔使っていたらしきジャンパーが入っていた。
「あー……良いのに気を使わなくて。ありがとね。お茶くらい飲んでく?」
この家に残ってるのは何か気を使っているわけでもなんでも無く、東京へ電車一本の立地で、適度な自由空間があり、なおかつ家賃に悩まされない丁度いい物件が昔で言う本家のこの家だったと言うだけだ。同様に、生活に適した場所に暮らすため引っ越していった両親とも何も確執はない。
「うん! コーヒー! 豆挽いて!」
うわあ厚かましい。吸血鬼姿には合ってるけど。
そう思いながら、玄関の電気を点けて中へと招き入れる。
「あ、でも答え聞いてないよ」
「は? 何を?」
「トリック・オア・トリート!」
「や、だからコーヒー飲ませるってんじゃん」
あっ! そっか! という顔をする平太くん。
「それとも、トリック?」
私がそう言うと、彼は何故だか顔を赤らめるのだった。
恥ずかしかったのかな。きっとそうだな。