【カンボジア】3日目:アンコールトム都城(南大門、バイヨン寺院、タ・プローム寺院)
シェムリアップのホテルを出発し、クルマで約20分。見えてきたのは、アンコール遺跡群の入り口、独特な石造りの門、南大門。この門を一目見たとき、「ついにアンコールに来た」という感慨が湧くが、同時に、その異世界的な姿に圧倒される。門の上部には四面仏の顔が彫られており、その表情は見る者を見定めるかのように見下ろしているようだ。
門に至る石道の両脇には、神と阿修羅の像が並び、それぞれが縄を引くような姿勢で立つ。これらの彫刻は、ヒンドゥー教の天地創造の神話「乳海攪拌」の場面を示したものだともいう。
南大門をクルマでくぐり抜け、数分ほど進むと、目の前に巨大な石造大伽藍バイヨンが姿を現した。その外観は、これまで見てきた日本の神社仏閣や欧州のキリスト教会、イスラム教のモスク、メキシコのテオティワカンやマヤ遺跡とも全く異なる。寺院の表面には精巧なレリーフが無数に彫られており、描かれた内容は約800年前のアンコール文明の栄華を物語っている。
バイヨン寺院は、アンコール王朝の全盛期を築いたジャヤヴァルマン7世(1181~1218年頃)によって建設された。背の高いパルミラ椰子の向こうにそびえる寺院、約800年前の往時の壮麗な姿が蘇るようで、しばし言葉を失なう。寺院の壁面には無数のレリーフが刻まれており、その一つ一つが丁寧に物語を語る。すべてをじっくりと見たいという気持ちが湧くが、残念ながら、時間の制約がある。
レリーフを眺めるのに疲れて、ふと横を見ると野猿がいる。
見上げると伽藍と青空。
これほどの大量かつ重量のある石材を、数十キロも離れた採石場から運び、積み上げていくという作業がどれほど困難で大事業だったのか。数万人の労働者と象などの動物も動員され、何年もの年月をかけて造営されていたことだろう。その壮大な建設光景が目の前に浮かんでくるようだ。
バイヨン寺院を後にし、私たちはクルマでタ・プローム寺院へ向かった。タ・プローム寺院は、仏教徒であるジャヤヴァルマン7世がアンコール都城で最初に手掛けた大規模な建築の一つ。彼は母親を象徴する仏像を造らせ、この寺院に安置した。しかしその後、ジャヤヴァルマン8世の時代に、この寺院はヒンドゥー教の寺院へと改修されている。
樹木の長く伸びた根が、遺跡の石の隙間に入り込み、やがてその構造をしっかりと覆い尽くしていく。年月とともに、根は石を押し広げ、時には砕きながら成長を続ける。自然の圧倒的な生命力が、かつて強大を誇った文明の跡を静かに、しかし確実に侵食していく様子がそこにあった。
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