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【台湾の歴史】人気の観光地、艋舺(Meng xia)と大稲埕(Da dao cheng)で何があった?1853年の「頂下郊拚」という泉州人と漳州人の大喧嘩
大稲埕に行ってきた話を、たまたま、台湾人の70歳の方にしたら、「知っているか?、大稲埕ができたのは、泉州人と漳州人が大喧嘩したからだ。艋舺が泉州人、大稲埕が漳州人だ」と話す。泉州、漳州という土地の名前は聞いた事があるが、そもそもどこにあるかは良く分かっていなかった。同じ台北の淡水河沿いの古い街の中、歩いても約30分程の距離で、何があったのだろうか?。興味が湧き、調べる事にした。それは、1853年(清の咸豊3年)の「頂下郊拚(ding xia jiao pan)」という対立が契機だった。
19世紀当時、艋舺には、福建省から来た移民たちが多く住み、淡水河の港を拠点に発展を続けていた。その艋舺では、商売、信仰、宗族を同じくする人たちの出身地により分かれていた。淡水河沿いに三邑人、内地側に同安人が住んでいた。
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「三邑人」とは、現在の福建省泉州市付近の晉江、惠安、南安の出身者。三邑人は、商業同業組織を作り、龍山寺を組織の拠点とし、「頂郊」と呼んでいた。リーダーは黄龍安という人物だった。艋舺の淡水河沿いに住んでいた。
「同安人」は現在の福建省漳州市付近の同安出身者で、淡水河から少し離れた八甲庄辺りに住んでいた。彼らは厦門(xiamen)から台湾に渡り、商業同業組織を作った。組織の名は、厦門の厦の発音から取り<下郊>と呼んでいた。彼らは、林祐藻をリーダーに霞海城隍廟を組織の拠点にしていた。
「安渓人」は臺灣鄭王朝家の系譜の縁であり、一番遅くに艋舺に来ており、”郊”の組織は作っていなかった。当時のリーダーは白其祥で、艋舺清水厳祖師廟に組織の中心があった。
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三邑人は、波止場労働力、船運、パトロール、徴税、徴兵を仕切っており、同安人は不満を抱いていた。一方、三邑人も同安人に対して、非協力的な態度に不満を抱いていた。双方の怨みが次第に高まり、1853年に大きな衝突が発生した。これを「頂下郊拚(ding xia jiao pan)」と言う。
三邑人はついに同安人を攻める計画を立てたが、両者の間には、安渓人により建立された清水巖祖師廟があった。三邑人は安渓人に対し、威嚇と利誘で、廟を破壊した。三邑人は同安人の街に攻め込み、家屋をすべて焼き払った。敗北した同安人は、艋舺の拠点を放棄し、長老の林佑藻の指導のもと大稻埕へ逃れ、新たに商業拠点を開いた。同安人はその後、大稻埕に霞海城隍廟を建立し、頂下郊拚の際に救出した霞海城隍の神像を奉祀することになった。
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三邑人(泉州人)は、この喧嘩で艋舺の利益の大部分を掌握し、同安人(漳州人)は大稲埕に移った。しかしその後、艋舺川の土砂が堆積し、船舶の停泊が難しくなり、多くの船は大稻埕へ移るようになったため、大稻埕が艋舺に代わり北台湾の商業貿易の中心になる。同安人は再び商業の利益を手にすることができた。
この後、新竹出身の進士、鄭用錫が『勸和論』を執筆、双方に和解を促したそうである。
そんな事件が、今日の人気の観光地、艋舺(Meng xia)と大稲埕(Da dao cheng)であったとは、私も知らなかった。ちょっとした違い(当人達にとっては大きな違いなのかもしれない)が集団組織を生み、利権争いから、時には喧嘩や戦いに発展し、大きな財産と人命の損失を生む。人間の性は哀しく、今でも同じ様な事が世界中で繰り返されている。一方で、和解の努力の大切さと利益を知り、努力する人たちもいる。
参考:
・郊(jiao)とは。 清の時代、華南の沿海地域にあった「商業同業公会」という同業組織のようなもので、臺灣でも発展した。
・維基百科 頂下郊拚
・Youtube 清水祖師-頂下郊拚#1