シェフィールドで大荷物を抱えた話
シェフィールドという町を知っているだろうか。サッカー好きの聖地マンチェスターの隣にある、実はイギリスで5番目に人口が多い町。(それでも58万人らしい。こう考えると日本の人口はまだまだ多い)昔はナイフなどの刃物産業が有名な工業都市でもあった。多くのノーベル賞を輩出しているシェフィールド大学という、日本では全然知られていないけど、イギリスではシェフィールド卒というと、おっ!となる(らしい)学校がある。
引用:https://www.instagram.com/p/BopAWuSABJG/?
シェフィールドの町は、右も左も学生ばかりだ。だから99セントショップや、ビール(TESCOで大量にセット売りしている)、安いパブがたくさんある。
そんな早稲田みたいな町だが、シェフィールド大聖堂や合同庁舎など、いかにもザ・ゴシックといった荘厳な建物が立ち並ぶ町でもある。google画像で検索してみてほしい。少し薄暗いが、空に切り立つレンガの建物や、窓辺に白や青の緑があふれる美しい風景がたくさん出てくるから。
私は、同じく日本からきた女子学生と一緒に、町をぶらぶら歩きながらビールをひっかけて帰るのが日課だった。
いつも一緒にいた女の子は、こんがり焼けた肌、セクシーな体形、一見ビッチに見えなくもないが、とてもまじめで性格の良い子だった。そしてこの子がまぁもてる。道を歩くだけで声をかけられるし、一緒にパブへ行くと、すぐさまイギリス人が寄ってきて奢ってもらえる。
一方、私は背も低く、お金がないので見るからに貧乏そうな学生スタイル。勿論声なんてかけられない。私だってもてたいのに、全然もてない。
20代前半なんて、コンプレックスの塊だ。その上、当時は山田詠美にはまっていて、彼女のようなセクシーで大胆、だけど知的な女性を崇拝のごとき、そして強烈な嫉妬の対象としてみていた。
だから、夏だというのに革ジャンを着ながら歩いたシェフィールドの美しい街並みも、大聖堂も、正直ろくに覚えていないのだ。なんせコンプレックスという大荷物を抱え込んでいたから。
10年前の私は、(20代前半の女性がわりかしそうかもしれないけど)見た目重視度がとても高くて、自己肯定感があまりなくて、何が良くて何が悪くて、当分国を出れない鎖国状態になるなんて思ってなかった。
そんなシェフィールドの記憶も、早くも10年前のものになった。30歳になった私が、またシェフィールドの町を歩くとき、コンプレックスという大荷物は、ちゃんと捨てられているのだろうか。いやせめて、家で留守番させて、身軽な旅支度ができているだろうか。